第2話

重圧
「どうしてこんな簡単な問題も解けないんだ!え!言ってみろ!」

「だ、旦那様落ち着いて下さい。真宙まひろ君はこれでも凄く頑張りましたよ」

「何を甘い事を言ってるんですか!こんな簡単な問題が解けないせがれにも非はあるが、貴方の教え方が悪いんでしょう。今日限りで辞めてもらいます」

「なっ…!」

今日を入れて何人目の家庭教師がクビになったのか…。それもこれも全部僕のせいだ。

僕はあまり賢くない。一等区に住む子供達はみんな受験形式の学園に行く。幼稚園も受験だったし、小学校も受験だった。何とか必死に勉強して追い付いて行くのがやっとで…。

そして来年は中学を受験する。
小さい頃言われた事がある。

『真宙は将来父さんの跡継ぎになる。だから中学や高校を飛ばして大学に行けるぐらい勉強して賢くなってくれたら俺は嬉しい』

「うん、僕頑張るよ!父さんの為に!」

『ああ期待しているぞ。真宙』
その期待も虚しく、僕の成績は一番下だった。学校では馬鹿呼ばわりされるし、友達なんている訳もなかった。外で遊ぶ同級生の声が聞こえても、僕は学校から帰れば勉強をして食事の時は永遠と小言を聞かされる。寝る時間は23時、それまではみっちり勉強だ。夜の家庭教師は父さんだった。教え方は確かに他の教師と比べて分かりやすい。だけど解けても褒めてくれない上に少し間違えれば直ぐに怒鳴られる。
勉強は【出来て当たり前】なんだと父さんに物凄く怒られている…。
「全く…はァァ、どこでどう育て方を間違えたんだ。俺の育て方は完璧だった。母さんも父さんも幼稚園の時にはこんな問題解けていたというのに…なんでお前は出来損ないなんだ」

「ッ……ごめんなさい…」

「ふん、謝る暇があるなら勉強しろ。お前みたいな奴に寝る間なんか無いんだ。この一等区で最下位だと?そのひとつ上の者は上位者の点数と5つしか違わない。お前はそいつと30点もの差がある。分かるか?お前はな、親の顔に泥を塗ってるんだぞ!!! もっと恥を知れ!! 不良品が!!」
毎日罵倒されて、勉強の手も進まなくなる。新しい家庭教師が見つかるまで僕の父親による地獄の勉強が続いた。もう心がボロボロで布団に入ると涙が止まらなくなる程だった。


── そんな、ある日のこと。
「あなた!あなた!ちょっと来て下さい!」

「なんだ騒々しい…はしたなく大きな声を出すんじゃあない」

「あなた、これ、見てください」

「……こ、れは…」
母さんの声が気になりリビングに行った僕はその光景に手が震えた。

背中を嫌な汗が伝う。

喉がカラカラに乾いて仕方がなくなった。


─── あぁ神様…。どうして人を、こうも不平等に作ったんですか?恨みでもあるんですか ───
その場に立ち尽くし僕は両親が喜ぶ姿を遠目から見つめる事しか出来なかった。

二人の足元に居たのは、弟のひじり
今は幼稚園に通っている…。肩を抱かれ頭を撫でられ愛おしそうに頬擦りされる聖…。

「……勉強…しなきゃ…」

その光景から逃げるため僕は自分の部屋に向かう。その時聞こえた父さんの歓喜の声に、僕はもう絶望するしかなかった…。