第20話

人質
「ここに居る全員両手を頭の後ろに置いて座れ! 早くしろ!」

マシューと遊園地に来ていた俺は迂闊にも手を離したあいつを追いかけなかった。怪しい奴なんか見当たらなかったってのに、まさか顔丸出しで普通の一般人がなんて思わないだろう。

「おら! そこ! さっさとしねえとこのガキの度肝ぶち抜くぞ!」
「ッ……」

俺は情けないことに今はまだこの男の言う事を聞くしか無かった。俺が絡むとマシューは危険な目に巻き込まれる。なんでこいつばかりが。

「よーし、いいか! この遊園地に爆弾を隠した! この場所のどこかにだ! それが爆発するまで貴様らにはここに居てもらうぞ。一緒にあの世行きだ!」

逝きてぇならてめぇ1人で逝けと言えればいいが人質にマシューを取られている今下手な動きも下手な事も言えない。
考えろ、この場を切り抜けられる最前の方法を! 考えるんだ……。

男の周りには他の場所から連れてこられた客と店員がいる。遠くで聞こえる銃声が嫌な思い出を掘り起こす。だが今はそんな思い出に浸ってる場合じゃない。

人質の男が1人になればいい、いや複数人を散らばせてしまえば……。俺一人で片付けられるかもしれない、だがどうやって?

「おい、このガキの親は誰だ」
「………なんだ」

みんなが俺に注目した。
「お前、見た事ある顔だな」
「はぁ? 俺はお前みたいな下衆野郎は見たこたァねえな、記憶違いじゃねえのか」
「下衆野郎だと……てめぇ…」

その時銃口がマシューに向けられる。

「今度俺を馬鹿にしたらこのガキ殺すからな」
「勇気もねえくせに。手が震えてんぞ、それに安全バーが掛かってるしな、撃てねえよ」

その言葉に犯人は安全バーを解除する、その場にいた誰もが俺を睨んだ。

「あっははは、これは失礼、さあお前はムカつくから先にぶっ殺してやる!!!」

俺は犯人を見すえ手を広げた。

「死ねぇぇぇぇ!!」

── カチャカチャ

「あ、あれ……」
「掛かったなクソ野郎!!」
「なっ!」

俺は立ち上がり犯人の腕を手刀し拳銃を落とした後マシューを腕に取り返し下ろしたあと、犯人の右腕を掴み手前へ強く引き右足で男の鳩尾に膝蹴りをお見舞する。
男は両膝をつき咳き込み胃液を吐き出した。

「リュウ!」
「大丈夫か真宙!」
「うん、平気」

俺は落ちた拳銃を拾い男に向けた。正しく安全バーを解除して…。

「てめぇこんな事してタダで済むと思ってんのか」
「ひっ……」
「死にてえならてめぇ1人で勝手に死にやがれ! ここにいる人達をてめぇの都合で巻き込むな! いい迷惑だ!」
「ごっ、ごめんな──」
「爆弾も大方嘘だろ、この拳銃もどこから入手したか警察で洗いざらい喋ってもらうぞ」
「けっ、警察の…ッ!?」

俺は上着に入っていた木製の手錠を掛けると頭に銃口を近付けたまま大人しくさせた。

「おい! そこの奴!」
「ひっ! うわああああ!!」
「うわああああ!」

みんな拳銃らしきものを落として逃げていく。

「仲間が弱くて可哀想に」
「ックク……ククク…俺をこんな目に遭わせてタダで済むと思うなよ英雄気取りがッ! 絶対酷い目に遭わせてやるからな、絶対にだ! ククク…」
「気持ち悪ぃ……」

男は目撃者の通報で警察へと連行され、俺は感謝状を送りたいと言われたがそれを断った。

「ですが…」
「俺は俺の子供のために体を張った、それだけの事だ。俺をヒーローとして見てくれるのはこの子1人で十分だ」

そう言い捨てて俺はマシューと手を繋ぎ観覧車へと向かった。マシューが振り向いた時、警官たちは俺に敬礼していたという。
「とんだ日になっちまったな」
「うん、びっくりしたけど…でも今日の事は思い出だよ!」

そんなマシューの笑顔に癒されながら、俺達はすっかり日の落ちた遊園地の夜景を観覧車から眺めては笑いあった。