第21話
悪夢
遊園地でのドタバタを終えてからホテルに帰る途中、眠たそうなマシューを抱き上げたまま部屋へと戻ってきた。
大夜景が広がるパノラマ状態の部屋と広いベッド、そこにマシューを寝かせる。外に出る為真宙にマシューという名を与えた、マシューのやりたい事をなんでもやらせるつもりだった。
いままでずっとこいつは我慢していたんだ。やりたい事も言いたい事も、甘える事も全て。だからこそ叶えてやりたいと思った、全部をこの俺が叶えてやろうと思ったんだ。
だが俺が一緒だと尽く危険な目に会う羽目になるらしい。それは俺が守ってやれば済むことだが、こう危険な事が続く様ではこの都会でのホテル暮らしも考えなくてはならない。
「ん……リュウ?」
「起きたか」
「僕寝ちゃってた? ごめんねリュウ、運んでくれたんだね」
「良いってことさ」
マシューを撫でてから俺は今後どうすべきかを考えた。このままこいつと共に行動するに当たり、俺だけでは命を守りきれない。
「マシュー、提案がひとつあるんだがいいか」
「うん。何?」
「今日みたいな日がまた来た時、お前が少しでも自分の命を守れるように戦い方を教えておきたい」
「…うん! 強くなりたい! 僕もリュウを守れるようになりたい!」
「そりゃ頼もしい、明日から稽古をつける。厳しくするが付いてこいよ、真宙」
「大丈夫だよ!」
そうして明日から俺はマシューに稽古を付けることにした。少しでも俺の背を預けられる奴がいれば戦いも有利になる。
「さ、夕飯食って寝よう。時間も遅い」
「うん。僕もまだ寝れそ…」
俺はルームサービスを頼むと簡単に夕飯を済ませ、23時を回る頃マシューを腕に乗せて、疲れていたんだろう、すぐ眠りへと誘われた。
── なんだ。
『ッ……ひ、……ッぁ……』
(なんだこれは…声が出ない…)
『こんなに小さいのになあ、可哀想に。恨むならお前の父親を恨めよ』
(親父……? 何故親父が出てくる……ッ)
『止めろ! 龍也! 逃げなさい!』
(親父……ッ)
『出やがったな殺人鬼め…殺っちまえ!』
(止めろ止めてくれ!)
─ ズダダダダダダッ!!!(乱射)
── ドサッ…
(親父ッ!!)
『に、…………ッげ………グァハッ!!』
(親父ィィッ!!!!)
「………き、……て」
(誰だ…)
「大丈夫だから、起きて」
(知ってる声だ……知ってる……)
── ガバッ!
「親父ッ!!………ッあ…」
「大丈夫。大丈夫だよ、リュウ」
真夜中、魘されて居たのだろうか。不安そうに声を震わせながら俺を抱き締めるマシューがいた。俺はただ何も言わずに抱き返すことしか出来ずにいた……。
俺は、泣いていた……。あの恐怖を知っている。何かを失う苦しみと恐怖と悲しさ……。
「大丈夫……怖かったね」
「ば、かやろ、う……怖がってんのは、お前じゃねぇか」
震える体をしっかりと抱きしめてやる。情けない、昔の夢を見て泣いて大切にしたい奴を不安にさせて怖がらせるなんて……。
「リュウが……死ぬ夢、見て……こわ、くて、おきて、確かめたら、リュウ……苦しんでて」
「そうだったか。大丈夫だ、俺はそう簡単に死にはしない。だから安心しろ、真宙」
腕の中で頷きただ震えるこいつを、俺は一晩中抱き締め続けた。怖くなくなるように……。