第15話

《外》という世界
「リュウ! あれは何!」
「あれか? あれは車だ、人を乗せて人が操作して移動する奴だ」
「じゃあこれは!」
「…信号だ、車同士がぶつからねえように、人が車と事故にならねえように管理してんのさ」

外に出てすぐに真宙、いやマシューは様々なものに興味を持ち俺に聞いてきた。珍しいものが多くある《外の世界》が余程楽しいんだろう。見ている俺も楽しくなる。

「リュウ! これは看板?」
「これは標識って言うんだ。外の世界は信号やこの標識で人間が言う事を聞く世界なんだ」
「ひょうしき? 外の世界って凄いんだね」
「はは。さあ、今日泊まれる場所に行こう。地区では宿だったがここじゃホテルに泊まれるぞ」
「ほてる?」

聞くもの、見るもの、その全てがマシューにとっては新しく初めて見るものばかりだ。興奮するのも分かる。
俺は元々この《外》から来た人間だ。生まれたのも育ったのも外の世界だった。だからこそ何も驚くことは無い。だがマシューは違う。
生まれも育ちも《内の世界》だった。外と内では文明の発展に大きな差がある。外では車や機械が普通に当たり前にあるが、内の世界では馬車や壁掛け電話がそこにある。そう、まるでタイムスリップしたかのように……。

「リュウ! リュウ!」
「ん? なんだ?」
「これ美味しそう! 食べてみたい!」

マシューが目を輝かせていたのはクレープだった。薄い生地に生クリームとフルーツ、アイスが乗ったスペシャルクレープ…。

「仕方ないな、買ってやるよ」
「やったー!」

青い瞳をキラキラさせ手渡されたクレープを見ては食べようとしない。

「アイス溶けちまうぞ」
「すごい綺麗だね、食べるの勿体ないよ」
「……よし、こうしよう」

俺はポケットから携帯を出すと写真を撮る。それをマシューに見せると喜んでいた。

「すごい! 綺麗に撮れたね!」
「壁の向こうは白黒だからな、それにここに来ればいつでも食えるだろ」
「また買ってくれるの!?」
「高いもんでもねぇし買ってやるさ」
「わあ、ありがとうリュウ! 大好き!」
「…(ドキッ) お、おう…」

それは当たり前に言われた言葉だった。この胸の痛みはなんだ? 口の周りにクリームをつけて食べるマシューが、死ぬほど可愛く見えた。こいつはまだ、子供なんだ。内の世界しか知らない子供でしかない…。

「リュウ、リュウってば!」
「ッ…な、なんだ」
「食べる?」

そう言ってクレープを差し出している。俺はその場にしゃがみクレープを一齧りする。口に広がるクリームとフルーツの甘さ、目眩がしそうだ。

「うん、美味い。後は食え」
「ふふ。あーむっ!」

道端で配られているティッシュをもらい、それでマシューの口周りを拭いてやり、そして到着する。日本で最高峰のホテル、三ツ星獲得グランドホテルだ。いい値段する。

「わあ、おっきい建物…」
「このホテルは80階まであるんだ、その最上階に泊まれるぞ。夜は綺麗なものが見えるだろうさ」
「わあ! リュウはすごいね!」
そう言われ照れ臭いものがあり俺は誤魔化しながらホテルへと入って行った。

「…! お帰りなさいませ」
「ああ。最上階、スイートルームに泊まる。期間は半年ぐらいだ」
「かしこまりました。既にお荷物などは手配しております、今回は2名様ですね」
「そうだ。子供は料金いくらだ」
神木原さかきばら様ですからお子様に関しては料金は頂きません。どうぞ心ゆくまでココロとカラダをお休めになってくださいね」
「すまないな」

グランドホテル、俺はここの常連だった。毎回スイートルーム予約で他の客よりも優先してもらえる上に割引までしてもらっている。だからその代わりと言ってはなんだがホテルの用心棒もしているわけだ。
金の稼ぎ口は昔建てた会社の売上で賄っている。

「それではお部屋にご案内を──」
「必要ない。鍵だけ寄越せ」
「かしこまりました。ではこちら鍵でございます。ごゆっくりどうぞ」
「マシュー行くぞ」

俺はマシューを連れてエレベーターに乗り込むと最上階へと向かうのだった。