第6話

四等区
── ッギャアアア!
「うるせぇぞガキを黙らせろッ!!!」

「すっ、すみません…すみませんッ…」

── ドサッ!
「おらァ!!! 休むんじゃねぇ!!!」

「ッぐ…」
「……ッ…」

「真宙、あまり周りを見るな…」

「…う、うんッ…」
── 四等区 ──
一等区の人達が彼らを奴隷のように扱っている、泣き喚く子供に銃を突き付ける大人、よろよろになって倒れたおじいさんを蹴飛ばす男、村のあちこちで…目を塞ぎたくなるような光景が広がっていた。

嫌でも目に入る行為、だけど言われたとおりそんな奴らの横を黙って通り過ぎる。灰色のフードマントで顔を完全に隠し、大柄な龍也先生と手を繋いで歩いていく。所々で鼻をつく汚臭、何の匂いなのか確かめる暇もなく彼は " とある場所 " へ向かっていた。
「真宙にとってこの場所が新しい住家だ。今は慣れんだろうがしばらくの辛抱だからな」

「うん。大丈夫だよ、僕…先生が居るから」

「…ふっ。そう言って貰えると有難い」

先生は急ぎ足だけど僕の歩幅には合わせてくれていた。息を切らしながらもたどり着いたのは、木で出来た小さな小屋のような所だった。

「先生……」

窓のない家、木の棒で扉を固定してありそれを彼が退かすと独りでに扉が開く。中は暗くてあまり見えない。

「先生、ここ……何?真っ暗で何も見えない」

「ここは…」

そう言われ彼に手を引かれたまま中に入る。持っていたマッチで火をつけ壁のロウソクに点火、部屋の中が少しだけ明るくなる。内側から掛けられる鍵もあり彼はそれを、閉めた。
「…意外と広いね」

「俺にとっては狭くて窮屈でしかない。ホコリっぽくて寝心地も悪い、腰を痛める」

「…ならどうしてここに来たの?」

子供の僕には広いと思える部屋、片隅には藁の山があり中央には木のテーブルと長椅子、本棚みたいな仕切りのついた棚、あとは何も無い。

「真宙。お前は今日からここで俺と暮らす、あの家を追い出されたんだ。お前は捨てられた。家無き子を助けるのは当然だろう?」

「先生…ありがとう」

「俺はもうお前の先生じゃない、それに、たつや、ではない。俺は…龍也りゅうやと言うんだ。呼び方はリュウでいい」
そう言われおもむろに片腕だけを脱ぎ出す、今まで見えなかったものが見て取れた。

「そ、れ、ッ……」

「子供なのにこれの意味が分かるのか、さすがだな真宙」

そこに描かれてあるのは伝説の生き物、龍。青い鱗に覆われ黄色い瞳を持ち、鋭く尖った爪は人間を切り裂くと言われている。

だけどその刺青があるという事は……ッ。

「先生…ッや、ちが…リュウは…人殺し?」
「……あぁ。その意味さえ分かるとは、やはりお前は… " ただの子供 " ではないようだ…」

僕は震えるのを感じた。
手の震えが止まらない。

青い龍の刺青、それが表すのは【殺人鬼】

この世界のどこかに居るという噂は聞いた。腕いっぱいに描かれた龍の絵画、それが青い人は【殺人鬼】という誇りを持った人なのだと。普段は隠しているけど、殺す人にだけその絵を見せると……。

「真宙」

「ッ! や、やだ……よ、やだッ!」

僕は半泣きのまま彼の手を振り払う。その時僕を鋭い目で睨み付け首に手が伸びるとそのままドアに押し付けられる。苦しい…。

「ッせん、せ…」

「お前が俺に抵抗出来るのか?反抗出来る立場か?一等区の人間だとバレればもっと酷い扱いを受ける、殺されるかもしれないんだぞ?俺はお前を殺しはしない…なあ、俺を信じろよ」
そう言いながら僕の首から手を離す。隙があれば逃げられる、でもリュウの言う通り恐らく僕はひどい扱いを受ける。間違いなく……。

「…分かった、リュウの、言う通りに…する」

「ありがとう真宙。手荒な真似をして済まなかった。許してくれ…真宙…」

その場に両膝をついて僕の体を抱きしめてくれるリュウ、少し小さくて悲しそうな声、僕は背中に手を回してトントンと叩いた。

「大丈夫だよ。ちょっと怖くてびっくりしただけだから」

「…あぁお前は本当に…いい子だ。いい子なのになぁ…俺がお前を守ってやるからな。何も心配するな真宙…」

── どうしてだろう…リュウの声を耳元で聞いてるだけなのに、ぞわり、とする。体がむず痒いような…なんだろう…気持ちいい…という言葉が今は近い気がする ──

「うん。信じてるからね…リュウ…」