第30話

【第三章】新たなる敵へ
震えが漸く止まる、でも気持ちの整理はつかないままだった。僕の父さんが殺人集団のリーダーだなんて、今までそんな素振り見せなかったのに…。仕事で四等区へ行くと言っていたのは、殺人をするため? 分からない。父さんの事が分からない。

「リュウ…。リュウも人を殺してたんだよね」
「…あ、ああ…」
「人を殺すってどんな感じなの…」

そう聞くとリュウは困った顔をした。だけど知りたかった、父さんが殺人を楽しんでいるようにリュウにもそんな時期が……。

「…浄化だな。一言で表すなら…」
「じょう、か?」
「人は直ぐに死ぬ。流れる血流に沿って刃を突き立てれば血が流れ、死に至る。俺の感覚としては生肉を捌く要領で殺していた。刃が肉に刺さり切り裂かれる瞬間に命の輝きを見出していた、ああ生きていたんだなってな」

殺人の事を語るリュウの目は穏やかだった。いつもよりもずっと……。

「赤い血が流れる度に…ッて──」
「いいよ。続けて」
「……赤い血が流れる度に思ってたんだ、血は温かい。そこで正に人が生きていたことを教えてくれる。それこそが殺す事の醍醐味だと思っていた、生きている生き物を殺す快感はやってみなけりゃ分からない。だけどやった後で残るのは空しさ、俺はその空しさを埋めたくてずっと殺しをやっていたんだと思う」
「そうなんだ。今は空しさは無いの?」
「今はお前がいる。驚く程に穏やかだ、どんな事でもやれる気がするよ」

そう言って僕の髪にキスをするリュウ。
不思議だった。
リュウの殺人の話を聞いている僕の心が驚く程に穏やかだった。どうしてだろう…。話を聞いているだけなのに、僕の中に何かぞわぞわするものが混み上がってくる。

「人を殺すことで、何かが満たされる人もいる?」
「ああ、居るよ。弱い物を殺す事の優越感、満足感、幸福感、それが己の中に生まれた時またその感覚を味わいたくて手を汚す。スリルに取り憑かれて殺人をする者もいる。ただ多くの場合、外の世界の殺人は突発的な物が多いか…」
「……その場の勢いで殺すって事だね」
「そういう事だ。本物の殺人鬼は、他人に同情しない、悲しみも辛さもない。あるのはゲーム感覚に人が死ぬ楽しさだけだ」

ごくり、と唾を飲み込む。
人を殺す事の快感、病みつきになるほどの幸福感、僕はそれを知らない。

「だが真宙、お前は手を染めてくれるなよ? 殺人をする人間にはならないでくれ」
「ッ(ドキッ) あ、うん。もちろんだよ」
リュウは僕に殺人を望んでなんかない。きっと汚れ役は自分の役目だとそう思ってる。でもね、ごめんねリュウ…。
僕は……《それ》に興味があるみたいだ…。

「ねえリュウ、殺人はしないけど戦いになった時自分の身を守るためにする殺しはいいの?」
「それは正当防衛だと俺は思ってる。だがなるべくならお前は血に染って欲しくは無いなぁ」
「あはは、それって差別。僕もリュウと同じになりたいって思うよ、誰かを守るために血に染ってしまうならそれは仕方の無いことでしょ」

そう言うとリュウは『お前には敵わない』と小さく言葉を吐き出して僕を抱き締めていた。