母は私に優しく笑って、(本当は笑っていなのだろうが、当時の私はそう思っていた。)出て行った。
お母さんは、お父さんが仕事に行っている間に何故か居なくなっている事が多々あった。
きっと、今考えたら、男漁りなんだろうけど。
私は、ずっとショッピングに行っているのかとか、共働きなんだろうな、とか考えてた。
とは思っていたけど、両親の前では口に出さなかった。
そんな日々が続いて、ある日の事。
隣の部屋から、両親の怒声が聞こえてきた。
その時、私はようやく悟ったんだ。
お母さんは『男の人の家に行っていた』のだと。
その瞬間、自分の心は冷たくなった。
お母さんに愛されてなかった。
お父さんも仕事ばかり。
私は幼いながら、頭だけはよく回る人間だった。
だから、どういう事かはすぐ理解した。
そしてお父さんは凄く怒っていた。
『怒る』という言葉で、言い表せないくらい。
隣の部屋から出て来て、お父さんは私にそう言った。
何処へ?何故?お母さんは?
家事はどうするの?私がしないといけないの?
意味が分からない。
ワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイ……!!
心の中と裏腹に、私は冷静に声を絞り出した。
本当は両親のどちらかに選ばれたかった。
それなのに……選んでくれなかった。
そう提案した。
二人は仕方なく許可してくれたけど、前のように笑い合ったり、話す事はなくなった。
そして──月日が経って『あの日』、時透無一郎くんに、告白された。
ー過去、NEXTー
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。