炭治郎の家に乗り込んで奪い返す……何としてでも。
僕は暴力が嫌いだ。
だから、流石にそんな事はしないけど。
『無一郎くん』
『分かってるなら落ち着いて』
「あなたが思わせぶりな事をしなければ良かった話なのにね」
「残念、がっかりだよ」
スマホ片手に僕はそう送る。
『なんで!?』
『無一郎くんはもっと、白かったよ!!』
黒、白、なんて色で著しても仕方がない。
事実なんだから、意味が無いんだ。
人に彩色で著す、なんて、馬鹿げてる。
「じゃあ何?あなたは今、何色なの?」
「僕が黒なら、あなたは何なの?」
その返事はなかなか来なかった。
悩んでいるのだろうか、沈黙を貫き通しているよう。
『私は……灰色』
『微妙、なんだよ』
『無一郎くんがいくら壊れようとも、私は味方してあげようと思ってる』
『でも』
『このままじゃ、ダメだよ……』
その言葉はいやに僕の中を反芻した。
僕は──正しくない?
間違ってた?
まるで呪文のように出てくる言葉達を拒否できないんだ……。
頬に何か冷たいものが伝う。
普通、暖かいはずのそれは、冬の寒さで冷えていく。
ごめん、と口先で言っても……納得いかないんだ。
ーNEXTー
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!