ー無一郎がお風呂に入っている間ー
……上手くいったかな。無一郎くん、満足したかな。
手元に隠してたカッターを私は器用に使い、縄を解いていく。
音を立てないように、無一郎くんの家の鍵を内側から開けて、私は外に出た。
疲れてしまった。何より『愛されたい症候群』を患っているのがバレてしまった。
だから……逃げ出した。
あ……そうだ。
私は携帯電話を取り出し、『ある人』に電話する。
『ある人』は相変わらず優しい声をしていた。
少し安心して、更に会話を弾ませる。
電話口でも分かるような焦った声に、私は苦笑して、
そう言ってあげると、
と、承諾してくれた。
彼は──私の、 元々好きだった人。
仲も良くて、学校でもよく話す。
無一郎くんは、大好き。だけど……愛が重すぎる。
だから──。
謝っても、許されないだろう。
でも、その場しのぎにはなるだろうし、見つかるのも一時大丈夫だろう。
彼には──頭を冷やしてもらって、それからまた一緒に付き合ってもらおう──。
ーNEXTー
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!