《まい》
3時間、食べて飲んで話しまくった私たちは、居酒屋を出た。
サナと別れた私と廉は一旦お互いの顔を見る。
私と廉は駅までの夜道を2人で並んで歩く。
こうやって2人っきりになるのは久しぶりすぎて、なぜだか変に緊張してしまう。
私……いつもどうしてたっけ!?
急に廉に話しかけられて思わず肩が上がる。
そのせいで、私はヒールがガクッとなり、バランスを崩す。
倒れそうになる私は、廉の強い力によって引っ張られた。
思ったより廉の顔が近くにあって私は顔に熱が昇るのを感じる。
外が真っ暗でよかった……
これならきっと、顔の赤さなんてバレないよね。
卒業した頃よりも少しだけ伸びた身長は私よりも遥かに高い。
セットされた髪の毛に、筋肉のついた腕。
……昔はあんなに小さくて細くてかわいかったのに!
廉は自分の首に手を持っていきながら低い声で言う。
……な、何その質問!?
この状況でそんなこと聞かないでよ……
廉は急に歩きを止める。
私も廉に合わせて立ち止まる。
廉に彼女がいないなら……
私は……どうしたいの……?
久しぶりに他人の口からお兄ちゃんの話が出てきて、私は少し動揺する。
この5年間、私は1度もお兄ちゃんと会っていない。
お兄ちゃんはお正月も夏休みも帰ってくることはなかった。
お母さんとは時々連絡を取っているみたいだけど、私とは1度も連絡を取ってもいない。
……それでも
お兄ちゃんがいなくても、私は5年間必死に頑張ってきた。
どうしようもなく孤独に押し潰されそうになって、全てを投げ出したくなるときもあった。
だけど……泣きながらでもいいから必死に喰らいついてきた。
自分の力で歩いていける……強い大人になるために。
困ったことがあったら、自分で乗り越えるようになった。
人に助けてもらうんじゃなくて、助ける側になった。
自分一人で生活できるようになった。
私は……きっと一人でも大丈夫。
だけど………
一瞬何が起こったのかわからなかった。
急に私の身体が宙を舞ったように動いて、気づいたら廉の腕の中に……
ってえええ!!?
な、なんで抱きしめられてるの!?
魔法がかかったかのように瞳の中が煌めく。
もういいよね……
この5年間、1人でずっと頑張ってきた。
1人で頑張ることは素敵なことなんだろうけど、ずっとずっと孤独で本当は寂しかった。
辛いときは誰かにそばにいて欲しかったのに、ずっと強がってた。
だから……もうずっと好きって言いたかった人に甘えてもいいよね……
5年間……ずっと1人で頑張り続けたことが報われた気がした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。