遡ること,二年
私と徹達はまだ一年の頃の話
其処には,『 若菜先輩 』という三年生の先輩がいた
若菜先輩はすごくすごく優しくて,可愛くて,
マネ業も儘ならない私を,よくしてくれていた
いつもふにゃっとした笑顔で笑いかけてくれて
優しく指導してくれて
時には厳しい顔でアドバイス
でも,
その笑顔はある日奪われた
あぁ,違うか
“ 代わりの笑顔 ”が出来たんだ
亜子先輩は,三年になったと同時に入ってきた新しいマネージャーで
私と同じくらい初心者だったけど,若菜先輩に教えてもらって,なんとか仕事をこなせていた
私も最初は信頼してて,仲良くしていた
けど,どうも引っかかってしまった
亜子先輩の笑顔は,
若菜先輩と,少し,似ていて
あのすごく可愛いふにゃっとした笑顔
それが,いつの間にか亜子先輩のものになっていた
違和感しか覚えなかった,
最初はすごくおしとやかな感じだったのに
急に元気なキャラになったり
すごく手入れされているような綺麗なストレートロングヘアも
若菜先輩のように肩上のボブにしたり
似せていった
全部,全部
怖いほどに
そしてある日,
若菜先輩の笑顔だけじゃなくて,
全てが亜子先輩のものになった
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!