第3話
明日が眩しい
掴んでいる鎖は金属だから、尋常じゃないほど冷たいだろう。それでも平然としている。
「奇病。」
「は?」
「私の秘密のしょーたい。ねえ、すごいでしょ?その病気、世界で五十人くらいしか患者がいないんだって。」
まるで、誰かの噂話をするような軽い口調だった。それに加え、次の僕に僕から出る言葉を探るような、ワクワクしているような、そんな上目遣いだ。
「それと、君が今·····いや、あの日もか。深夜の公園にいることに、どんな関係性があるっていうんだよ。」
「私、もうすぐ死ぬの。」
「··········」
彼女が出した切り札にかなう言葉なんてなかった。それがわかっているのだろう。そのまま話を続ける。
「変氷病って言われてるやつなんだけどね。」
「へんひょうびょう·····。」
口の中で反復した。
聞いたことはある。いつかドキュメンタリー番組で取り上げられていた。
変氷病。
それは体から熱がなくなる病だ。肌が雪のように美しく白くなることからその名前がついたとされる。
正確には血液がうまく作られず常に貧血を起こしているため体温が低く肌が白い状態なのだ。
「いつ死んでも、おかしくないんだって。この病気を告げられた時、私はあと何年で死ぬ予定なんですかぁ?って聞いたら、『年では表せない』って言われたの。もう、日数でカウントした方が早いんだぁ、って笑っちゃったよね。」
さも面白おかしいというような表情で、地面を蹴る。ブランコが前後に揺れ、彼女に乗っていた雪がぱらりと落ちた。
「一年後に私はいないんだよ。医療の進歩って言ったって、今まで誰ひとり治った人いないんだもん。だからさ、眠ったら二度と目が覚めないんじゃないかなって、ちょっと思っちゃうの。」
笑った振動で、再び雪が落ちる。
なんだかとても虚しくなる。
「僕が・・・」
「ん?」
言うべきだと思った。
「僕が眠らない理由は、明日が見えてしまうせいなんだ。」
「そっか。」
「驚かないの?」
馬鹿にしたり、笑ったりされると予想していたのに。
「別に。羨ましいなーって思ってさ。」
「羨ましい?どこがだよ。」
ぼくは眉をひそめる。
「明日が保証されてるって、すっごく嬉しいじゃん。夢を見るのは、明日もここで生きてるって証明じゃん!」
反論しようとして、口をつぐむ。
哀しげに目を細めた彼女の瞳が、水面のようにゆらゆらと揺れていたからだ。
「あっ、そうだ。」
刹那に何度か瞬きをした彼女は、じっと僕を見た。
「君が見てきてよ。」
「何を。」
「私の明日。」
「嫌だよ。なんでも見れるわけじゃないんだ。僕に関わる出来事しかわからないし。」
「だったら君が明日もここに来ると約束して。そこに私の姿がなかったら、その時はきっと・・・」
きっと。
その先は簡単に予想がついた。
「考えておく。何度も言うけど、眠ることは苦痛なんだ。君とは違う意味でだけど。」