モトキside.
…ガチャ、バタン。
ドアの開閉する音が響いた。
重苦しい雰囲気に耐えきれず、そう尋ねる。
場違いな、元気な声が響く。
辛そうな顔が奥に見える。無理してるんだ。
…あのシルクをこうさせるほど、何か大きなことがあったんだ。
そう言うと、みんな重い足取りで中に入る。
仲間に苦しそうな顔は見せない人なんだろう。
…ほんと、どこまでもリーダーだ。
カチャカチャと食器の微かにぶつかる音が鳴る。
意を決して、聞いてみる。
おそらく、食事中に、という意味なんだろう。
彼は、本当はとても心遣いができる人だから。
そうやって笑いかけると、幾分空気が和らいだ。
そこで、言葉が途切れる。
そういうと、1枚の写真をこちらに向ける。
写真を見た俺は、反射的に立ち上がる。
違う、読めない。
だけど、
『Ce qui est libéré, c'est―――』
いつの間にか、声は止んでいた。
「解放」が何なのか、見当もつかない。
だが。
この場にいる全員が、何かよからぬことが起きる、そう感じていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!