2日ぶりのユリシーズは少し顔色が悪くて、ちゃんとご飯を食べていないように見えた。
ユリシーズ! 顔色が悪いよ。ちゃんと寝てる? ご飯は?
大丈夫だよ。少し魔力を使い過ぎて体にひびいてるだけだから
もうこんなことやめよう? 話を聞かせて。何を思っているのか私に教えて
……嫌だ
っ! ……いじけてる子供みたい
そう呟くと、ユリシーズは耳を赤く染めて口を開く。
仕方ないだろう! 君を帰したくないんだ。ずっと一緒にいたい
ユリシーズは目に涙を溜め、それが流れ落ちてしまう前に自分の手で拭い取った。
……やっと見つけたんだよ。聡乃となら寂しい思いを埋め合える。俺と魔女さんみたいに
そんなに、私のことを信頼してくれてたんだね。ありがとう。けど、ごめんね
ユリシーズは私に覆いかぶさるように抱きついてくる。
けど、それはいつものような優しさではなく、「いかないで」と縋っているようだった。
ユリシーズをね、1人ぼっちにさせたいわけじゃないの。私が向こうで自信を持てる自分になったら、また戻ってくるっていうのはどう?
そう聞いてもユリシーズは何も答えてくれない。
じゃ、じゃあ、……そう、遊べる時間をね、もらおうと思ってるの。毎日、箱庭に遊びに来るよ!
それでもやっぱりユリシーズの反応は見られない。
……ユリシーズ
もう大丈夫だよ。今は充電中だから、もう少しこのままでいさせて
うん
ユリシーズの首に腕を回すと、私はそのまま軽々と抱き上げられてしまう。
帰ろうか
え、今から?
明日になったら俺の気が変わってるかもしれないからね。今のうちに逃げておいた方が賢明だと思うよ
逃げるなんて……そんな
今までごめんね。……話したら絶対こうなると思ったんだ。聡乃を苦しませたいわけじゃないから、俺は結局こうするしかない
……ねぇ、また戻ってきちゃダメなの?
もし、またうまくいかなかったなら迎えに行くよ。けど、聡乃が思い描く自分になれたなら、お別れだ
どうして?
振り返らずに前を向いて歩いてほしいから。俺たちはいつか聡乃の自由を奪ってしまうかもしれない。そうならないようにだよ
……
ユリシーズは私の頬にキスをして微笑みかけてくれる。
こんな暗い話はやめよう。そうだなぁ、少し思い出話を聞いてくれる?
うん、聞きたい
俺は聡乃と同じようにここに迷い込んだ子供だったんだ。優しい魔女さんと暮らして、俺は彼女に恋をしてしまった。死ぬ間際にね、魔女さんは俺を別の平和な世界に帰そうとしたんだ。きっと、俺をこの箱庭に縛っていると勘違いしたんだろうね。もう大人の俺が泣きじゃくって駄々をこねるもんだから、随分困っている様子だったよ
懐かしそうに話すユリシーズはとても幸せそうだった。
魔女さんとこの箱庭で過ごす日々はとても幸せだった。ここで生きていくのが俺の人生なんだ。聡乃が現実を忘れたくないと思ったように、俺もここでの魔女さんとの思い出を忘れて生きていくのなんて無理だったんだ
私とユリシーズはすごく似てたんだね
そうだよ。だから、俺は君の幸せを願って送り出す。また辛いことや悲しいことが待っているかもしれないけど、聡乃なら大丈夫。現実に立ち向かえる強さが君にはあるから
ありがとう。……ユリシーズ、きっと、魔女さんはずっとどこかで見守ってくれているよ。ユリシーズの幸せをずっと願ってる
そうだね。彼女のことだからすっごく後悔していそうだけど、俺は幸せだって伝わるかな?
伝わるよ。きっと、伝わってる
そっか、そうだといいなぁ
ユリシーズは私を地面に下すと、ゆっくりと立ち上がる。
小刻みに震える手が私の目をふさぎ、深く息を吸う音が聞えてくる。
さようなら、聡乃
……うぅん、やっぱり、また会おうね。ユリシーズ、私絶対会いに来るから
ははっ、じゃあ、自力でおいで。いつまでも待ってるよ
ユリシーズの顔は見えないけど、きっと、私を笑顔で見送ってくれている。
森の精よ、幾億の時を超え、時空を超え、彼の人をあるべき世界へ帰したまえ
温かな光に包まれる感覚と一緒に、私の意識は奥深くへと沈んでいった。
ちゃんと帰してあげたの?
もちろん。家のベッドの中に送ってあげたよ
そう、なら安心ね
……ベラ、ずっと俺なんかのそばにいてくれてありがとう
なによ急に。……私はあなたの使い魔よ。嫌って言われたって離れたりしないわ
☆
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!