生チョコを型の中に流し入れながら親父に笑ってみせた。
けど、内心は自分の部屋でこもりたかった。
店に入ってくる客は決まって異性に渡す生チョコを買っていく。
浮かれた表情のお客を見ると、なんとも言えない悲しい気持ちになった。
俺は彼女いないのに……もらう相手もいないのに……そんな当の俺は男に渡すチョコ作ってんだもんな。
はは……なんか逆に笑えるな。
段々とおかしく思えてきて、思わず肩を揺らした。
とその時カランカランと音が続けて鳴った。
立て続けに客が入ってきたらしく、店内が一層賑やかになる。
おぉ、すげぇ人気だな。
俺も頑張って作らないと。
と、表でお客の対応をする母親がキッチンへ顔を出した。
「すぐる、店がお客さんでいっぱいなの。アルバイトの子も足りてないし、悪いけどお客さんの相手をしてくれない?」
……マジかぁ。
接客苦手なんだよな。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!