第10話

やっぱり笑顔には弱い
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2018/09/23 11:32
気難しい感情が巡る、そんな日々をおくること一週間。如月が未だ襲ってこない。警戒しているものの、目が合う度にあいつは笑うだけ。

あれは、夢だったのだろうか…。

そんな願望か勘違いの狭間をさまよっていると、誰かに肩を叩かれた。まあ、俺に話しかけるやつなんて一人しか思いつかないが。
「なんだよ」
「いや、別に?元気ないなー、と思いまして」
「元気はいつもない」
「いや!今日は一段と元気がない!断言する!」
「なんでお前がわかるんだよ。俺の元気度が」
「それは…長い付き合いだからだ!」
「まだ二年ちょっとだけど」
「う、うるせぇ!俺にとっては長いんだ!!」
「アッソ」
「興味もて!!」
「もたない」
「んだとぉぉ!?」
こんな感じで、保野とは今までと変わらない日々を過ごしている。困難なのは、平然を装うことだけだ。
「…あ」
「今度はどうした」
「ノート忘れた」
「………貸さないからな」
「まだ言ってねぇんだけど!?」
「俺は貸さない。別のヤツに頼め」
「俺に友達がいるとでも思ってるのか?」
「俺よりはいるだろ」
「…ケチめ」
「ケチで結構」
チラッと保野を見ると、頬を膨らませ頬杖をついていた。

先生が入ってくると授業は始まったが、ノート忘れ男は教科書だけを開き、ペンすら手に持つ様子はない。
「…はぁ」
俺は仕方がなく、ちょうど持ち合わせていたルーズリーフを一枚、隣へ滑らせた。
「えっ…」
隣から小さく驚いたような声は聞こえたが、俺はそちらを見ずに、ルーズリーフから手を離しペンを持った。

仕方がなくだ。断じて優しさなどではない。

そんなことを頭で言っていると、横からビリッと紙を破る音が聞こえ、その数秒後に、小さな紙きれが手元に滑らされてきた。
『ありがとよ!』
その短文は、俺の集中力をぶった斬るには十分すぎた。








「いやー、まさか新田がノートを貸してくれるなんてな!」
「俺はそこまで意地悪じゃない」
「え、俺はてっきり''鬼''かと思ってたから──」
「俺は人間だ。人外にするな」
「閻魔大王レベルにしてもいい気が…」
「ギリ人もアウトだ」
「じゃあ──」
「もう止めろ!」
流石にもう出ないだろうが、これ以上言われるのは人間的に腹が立つ。

しかし、怒っている俺を前にして保野は笑っていた。
「お、おい。なんだ笑ってんだよ」
「ははっ!いやぁ、やっと新田が新田に戻ったからさ。つい嬉しくて」
「嬉しい、って…」
天然タラシなんだか、それともからかっているだけなのか…。

そんなことを考える前に、俺は赤い顔を隠すため、席を立った。
「笑うなよ…嘘つきな''僕''に…」

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