第2話

第1章
80
2021/09/19 01:21
「夜明けと朝陽」


俺の人生に夜が訪れたのはいつからだろうか。
妹が生まれてから?親が離婚してからか?
それとも……最初から?
ーーーーーーーーー
『朝陽、ほら見て妹の優樹だよ』
『すごく…小さくて、かわいいね母さん』
『ウフフッ、そうでしょう?』
『でも…すごく脆くて壊れちゃいそう』
『そうね、そう言う時はあなたが守ってあげるんだよ』
『うん!僕がお母さんも、優樹も守ってあげる!』
『それは頼もしいわね。
 じゃあ約束よ優樹をしっかり守ってあげてね』
ーーーーー
「うぅん……」
さっきの、夢か?
内容を全然思い出せねぇ…。
まぁいいや学校行く準備しなきゃ。
「はぁ……いやだな…」
なんであんなとこ行きたくない。
家でゴロゴロしていたい。
俺が準備を終えリビングに行くと
いつものように妹が床で寝ている。
ボサボサの髪、痩せ細った体。
さらにその細い体にはアザや傷が多数。
見ているだけで痛々しい…
毎晩行われる母からの虐待…。
けれど俺は助けてやることができない。
母の怒りの矛先が俺の方に向くのが怖い、
学校でも上手くいってないのにこれ以上辛い思いはしたくない。
俺は妹のようにずっと笑顔でいれる自信がない。
だからせめて大嫌いな学校に行くんだ。
それで妹が報われるとかでもないけど、
妹は嫌な事をされても我慢してる。
だから俺も一つでも我慢しなくては…。
「学校…行ってくるよ優樹」
眠っている妹の頭を一度撫でてみる。
あぁ……こんなに小さくて可愛らしいのに
「ごめんな………。ごめんな」
ーーーーーーーー
偏差値の低いクズみたいな奴しかいない学校
本当……何で俺受験失敗しちゃったかなぁ…。
「おー、朝陽くーん。まだ学校来る気なの?
 俺にあんだけ虐められたってのに、
 凝りねぇ奴だなぁ……あ!ドMなのか!」
俺がそんな趣味持ってるわけねぇだろ馬鹿!
いや…ダメだそんなことも言い返したら…。
妹はいつもこんな暴力に涙も流さず我慢してるんだ。俺も我慢しろ。
「そうかそうかぁーしょうがないなぁ」
『ドスっ』
「カッ…ハァッ」
「ほら、どうよ?
 ドMなんだろ、殴られるのが気持ちいいん  
 だろ?……なんか言えよゴラァ!!!」
「ウッ……」
痛い…苦しい…本当は叫びたい…。
助けて欲しい、普通の生活を送りたい。
妹と、母と楽しく笑っているような生活を。
「アハハッ、今日もやってるよキモっ
 血をつけないで欲しいよねまったく」
『ガラガラガラ』
「やばっ…先生じゃん…。座ろ」
「ほらお前ら座れ、喧嘩してんじゃねぇよ」
「違うんですよ先生ー!
 朝陽君が先に殴ってきたんですよー」
「あぁあ朝陽ー。
 内申下げるぞせっかく成績はいいんだから
 暴力はダメだ。後で職員室な」
「…………はい…」
「クスクス、俺の代わりに頑張れよドM君」
小声であいつが言う。
うるせぇよ。黙ってろよ。
そんな言葉が出てきそうになるが奥歯を噛みしめ、言葉を止める。
この世界では先生が助けてくれる。
大人が助けてくれる。
なんて考えは捨てなきゃ生きていけない。
一人で…自分だけで生きていかなければ……。
ーーーーーー
『ガチャリ』
何も言わずに母が家に帰ってくる。
「母さんお帰りなさい。
 ただいまくらいいいなよ」
「…………」
また無視か…。
まぁもう慣れてるからいいけど。
母さんは帰ってから何も言わずに妹に向かって一直線に歩く。
『バシン!!』
そして当たり前のように日々のストレスを
妹に当てる。
「母さん…。今日も大変だったの?
 悩みがあれば俺聞くよ?」
「………」
『バシン!!』
「ねぇ……やめてあげてよ……。
 絶対痛いよ…母さんが苦しんでるくらいに
 優樹も…苦しいし痛いと思うよ」
「……なによ…?
 口答えする気……?
 あなたまで私の敵になるの…!?」
母が俺のことを睨む。
しまった…母さんの怒りに触れちゃったか…
「……………いやなんでもない…」
「……もう寝るわ。勝手にご飯食べて」
「わかった…おやすみ」
妹に目をやると腕に赤い跡がついている。
母さんは結構本気で叩いていたらしい。
それでも妹の顔は笑顔だった。
「何で…笑っていられるんだよ…。
 痛くないのかよ…怖くないのかよ……」
妹は俺の顔じゃないどこか一点を見つめている。
「なにか、返事が欲しい…。
 聞こえないのも、見えないのも知ってる。
 それでも…優樹の本心が聞きたい…」
そしてふと、俺は優樹の手元を見る。
優樹の手は……とても震えていて、
俺よりずっと小さな手で…
『ごめんなさい、普通の子じゃなくて、ごめんね、話せなくてごめんね』
ずっとずっとこの文を書いていた。
「優…樹…?」
あぁ…この子も怖いんだ…痛いんだ…。
それでもこの子は、笑顔でいるのか……。
すごく強い子だと思っていたけど、
普通の女の子に変わりないのか。
「ウゥッ……優樹…助けてやりたい。
 俺は、俺は、どうすればいいんだ…
 人生何も変えられないのか……?
 夜は…明けないのか?」
今日初めてあの子が見える場所で眠った。
触れない程度にとても近くで。





第2章に続く

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