生徒会執行部。そう言われて、人々は何を思い浮かべるだろう。
選ばれし者が集う組織?
それとも、品行方正で真面目な生徒で形成される集団?
もしかしたらその響きに、何か輝かしいものを想像する人もいるかもしれない。
井瀬蘭子(いのせらんこ)、十六歳。
雲母坂(きららざか)高等学校生徒会執行部・庶務担当。
私に課された仕事は、肩書きの通り――
校内で発生するあらゆるトラブルや雑用に対応する『庶務』だった。
橘先輩――橘柊羽(たちばなしゅう)は、この高校の生徒会長だ。
成績優秀で学校中の生徒を率いる圧倒的なリーダー。
学校の代表としての役割を完璧にこなす能力を持ち、教師陣からの支持も抜群に厚い。
中学生の頃から私は先輩の言いなりになってばかりだけど――
彼についてそんな言われ方をされると、嫌な気はしないのが憎いところだ。
私は職員室を後にし、校門付近にある自転車置き場へと向かった。
* * *
駅から少し離れた場所にある関係から、この高校では自転車通学をする生徒が大多数を占める。
一方で駐輪場は乱雑に自転車を止める生徒のせいで、常に配置がぐちゃぐちゃになっていた。
皆がルールを守って自転車を止めるよう指導して欲しいと、生徒会にクレームが届くことも多い。
生徒会側もポスターを貼るなど啓蒙活動を続けて来たものの――
残念ながら改善の兆しは見えず、今は空いた時間に各メンバーが整理をするようにしていた。
隙間を埋めるように駐車されたマウンテンバイクを私は力任せに引っ張る。
無理矢理引き出した弾みでマウンテンバイクは隣のママチャリにぶつかり、そしてママチャリはさらに隣の折り畳み自転車に横倒しになった。
しまった、と思った時には後の祭だった。
駐輪場に止められた自転車は次々と将棋倒しになり、やがて端に置かれた黒塗りの巨大なバイクにガン、と大きな音を立ててぶつかった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。