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第9話

ショムちゃんと帰り道
 放課後。

 靴を履き替えて外へ出ると、宇田川先輩が数人の外見が派手な男子生徒と共に地面にお菓子を広げていた。
『ヤンキーのピクニック』という表現がぴったりなその奇妙な光景に、私は思わず足を止める。

蘭子
蘭子
宇田川先輩……
 昇降口でピクニックをするな。
 もし私が橘先輩なら、問答無用でお説教タイムに突入していたことだろう。
 何事もなく済ませたいところだったが、無視して通り過ぎるのはあまりにリスクが高い。仕方なく声をかけると、彼は「その声はショムちゃん」と、ポテトチップスをアヒルの口のようにくわえたままくるりとこちらを振り返った。
蘭子
蘭子
お、お疲れ様でした
 間抜けな姿に反射的に噴き出しそうになるのを堪えながら私は頭を下げる。
宇田川
宇田川
え? 俺なんかしたっけ?
蘭子
蘭子
五限のハンドボールの試合……見てました
宇田川
宇田川
ああ、見てたの
 先輩の隣に座っていた低学年らしき取り巻きが、ぼりぼりとポテトチップスのかすを散らしながら言う。
男子生徒
男子生徒
俺も見たかったッス! ボスのシュート、ぜってーカッコ良かったと思います!
男子生徒
男子生徒
見たら多分惚れちまいますね
宇田川
宇田川
変なこと言わないでよ
 彼は立ち上がり、制服についた土埃を払うと学生鞄を背中に背負った。
宇田川
宇田川
俺、今日はもう帰るわ。ショムちゃん、一緒に帰ろ
蘭子
蘭子
え、だってピクニック……
宇田川
宇田川
良いの良いの。そのお菓子全部あげるから、また明日ね
男子生徒
男子生徒
ウィッス!
 訓練されたかのようにタイミングを合わせて敬礼をする面々に手を振ると、先輩はすたすたと歩いて行く。
宇田川
宇田川
何してんのショムちゃん。帰るよ
蘭子
蘭子
は、はい!?
 ヤンキー達による「お疲れ様でーす」「お気を付けてー」などと能天気な声を背に、私は先輩の後ろ姿を慌てて追いかけた。



 *   *   *



 木枯らしがプリーツスカートの裾を揺らす。先輩は「さみー」と両手をポケットに入れたまま肩をすくめた。

 生徒会の関係者に見られたらまずいと思い、前を行く彼と少しだけ距離を取るように歩く。
宇田川
宇田川
ねえ
蘭子
蘭子
えっ?
 ぼんやりと左耳に付いた黒いピアスを眺めていた私は、突然振り返った彼に反応し切れず驚いて肩を揺らした。
宇田川
宇田川
似合ってんね。それ
 彼の指差す先に、首に巻いたグレーのマフラーがある。
蘭子
蘭子
あ、ありがとうございます……
 校庭の先輩の姿を眺めていた時に感じたような、鼓動が高まる予兆を感じて、私は誤魔化すように別の話題を振った。
蘭子
蘭子
先輩、今日はバイクじゃないんですか?
宇田川
宇田川
ん。たまには歩いて登校するのも健康に良いかなと思って
 腕を組んで頷く姿はなんだかおじいちゃんみたいだ。
 思わずふふ、と笑うと、「ってのは建前で」と言う声と共に、私と彼の距離が突然縮まった。
宇田川
宇田川
ショムちゃんと一緒に歩いて帰りたかったから、って言ったら、どうする?
蘭子
蘭子
え……?
 互いの鼻がぶつかり合いそうな距離まで顔を寄せ、文字通りにやりと彼は笑って見せる。
蘭子
蘭子
(駄目だ……このままじゃ、私……)
 じわじわと上がる体温に我慢できない。そう思った瞬間――

 私は、ドン、と先輩の胸元を両手で押していた。
蘭子
蘭子
ごめんなさい、私、今日大根買って帰らないといけないの思い出しました!
宇田川
宇田川
へ?
 言うや否や、くるりと踵を返して私は全速力で走り出す。

 生徒会執行部庶務は学び舎の前線に立つ戦士にあらず。
 だから、悩んだら逃げろ。

 中学の頃から教え込まれた教訓のおかげで、逃げ足だけは速くなった。
 恥ずかしさと言葉にできない感情に半ばパニックになりながら、私は歩いて来た道とは反対方向へ駆けて行った。