窓際の席は、暖房をつけていても尚寒い。
マフラーをブランケット代わりに膝に乗せ、自習をしていた私はふと校庭から聞こえる声に気付いて窓の外に目を向けた。
ジャージの色から三年の体育の授業であることが分かる。ボールを持って走り回っているところを見るに、ハンドボールの試合をしているようだった。
そう思った私の視線は、グラウンドの真ん中にしゃがみ込んでいる一人の茶髪の青年に注がれる。そう、宇田川先輩だ。
彼は頬杖をつき、恐らく敵側であろうゴールで競り合っている様子をやる気なさげに眺めている。バイクを運転するくらいだし運動神経は良さそうに見えたが、体育の授業……もといスポーツはあまり好きではないのだろうか。
しかし、一人の生徒がボールを抱えて走り出した時、彼の様子が変化する。素早く立ち上がった彼はボールを持った生徒に先回りするようにゴールへ向かって駆け出した。
窓を通して私の耳まで男子生徒の声が届いた瞬間、ボールがふわりと生徒の手から離れる。
先刻のやる気のない素振りのせいか彼をマークしていた生徒は誰もおらず、ボールを受け取った先輩は誰からのブロックを受けることなく、ゴールへ向けて高く跳躍した。
体操服のシャツの裾から、鍛えられた腹筋がちらりと覗く。
彼がボールを叩き込む瞬間に反応するかのように、私の胸もどくん、と音を立てて疼いた。
ホイッスルが鳴り、味方と思しき生徒達が笑顔で先輩の元へ駆け寄って行く。
その様子を眺めながら、私は自らの意思とは反して芽生えた感情に困惑した。
気付けば隣の席のクラスメイトがこちらを不思議そうに眺めている。伸び上がって窓の外を覗き込んだ彼女は「あー」と納得したように頷いた。
慌てて高速で両手を振って否定するものの――
未だにばくばくと高鳴るこの鼓動を誤魔化すことはできないような気がした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。