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第22話

ショムちゃんと夕陽

 寺院の境内に設置された見晴台からは、夕闇に滲む町の様子がよく見えた。

 眼下にぽつぽつと灯る建物の明かりを、私と宇田川先輩は並んで見つめている。

蘭子
蘭子
……私、親の仕事の都合で小学四年生から中学二年に上がるまで海外にいたんです
宇田川
宇田川
うん
蘭子
蘭子
中途半端な時期に転入することになって、クラスではいつも浮いてました

 一見聞こえのいい『帰国子女』。

 けれど小学校時代は仲良しだった友人と一緒に卒業できなかったどころか、帰国すると周囲のクラスメイトは自分を排外的な目で睨んだ。


 『どうせ海外にいたことを鼻にかけているんだろう』
 『二年生で転校して来るなんて、クラスの調和を乱している』


 期待に胸を膨らませて転入した当時の自分の想いとは裏腹に、待っていた現実は一人ぼっちの毎日だった。

蘭子
蘭子
そんな私に、唯一声をかけてくれたのが橘先輩でした
蘭子
蘭子
『生徒会に入らないか』って持ちかけられて、初めて私に居場所ができたんです
宇田川
宇田川
んで、ショムちゃんは柊羽のことは好きにならなかった訳?
蘭子
蘭子
えっ!?

 突拍子もない質問に、私は驚いて宇田川先輩を見上げる。

 少しだけ唇を尖らせて膨れた表情はまるで子どものようで、思わず笑いがこぼれた。

蘭子
蘭子
もちろん橘先輩は永遠の憧れです
蘭子
蘭子
私を助けてくれた恩人でもありますし、今も生徒会のトップとして周囲を引っ張るリーダーシップは心から尊敬してます
蘭子
蘭子
だけど恋愛感情を持ったことは……むしろ橘先輩はお兄ちゃん? いや、もはやお父さん的な存在と言うかなんと言うか…

 しどろもどろになる私を、今度は先輩が笑う番だ。

 「ごめんごめん」と目尻を下げながら、先輩は私の頭をぽんぽんと撫でた。

宇田川
宇田川
柊羽に憧れるのは俺も一緒だよ。昔からそう。いくら努力したところで、あいつには到底追いつけないと思ってる
宇田川
宇田川
俺達が会えたのも、結局のところはお互い柊羽がきっかけになってる訳だし
蘭子
蘭子
そうですね

 先輩の掌が、ふわりと頭から離れる。

宇田川
宇田川
でも……ちょっと嬉しいかな
蘭子
蘭子
え?
宇田川
宇田川
一つだけ、柊羽に勝てること。見つけられたと思って

 そう言って、先輩は腕を伸ばすと――

宇田川
宇田川
好きだよ、蘭子

 抱きしめる腕に力をこめて、先輩は私の耳元で囁いた。

宇田川
宇田川
俺が高校を卒業しても――ずっと、隣にいて欲しい
蘭子
蘭子
先輩……

 耳から伝わる先輩の声がダイレクトに私の心に響き、脈打つ鼓動が加速して行く。
蘭子
蘭子
……私も、先輩が好きです
蘭子
蘭子
来年も、その先も――ずっと、先輩と一緒にいたいです

 夢中になって言葉を紡ぐけれど。

 夢のような現実に思考は全く追いつかなくて、熱に浮かされたような気持ちのまま私は先輩の背中に手を回した。

宇田川
宇田川
本当は、男らしく君のことを守れれば良かったんだけど
宇田川
宇田川
結局守られたのは俺の方だったね
蘭子
蘭子
……ダテに生徒会長に鍛えられてませんから
蘭子
蘭子
これから先輩にピンチが訪れても、私の逃げ足と大根演技で万事解決です
宇田川
宇田川
……言ってくれるね

 低い笑い声が耳元を掠め、やがて先輩の指が私の顎を優しく掬う。

 数秒後の予感にためらいがちに瞳を閉じれば、柔らかい唇が押し当てられた。

蘭子
蘭子
んっ……

 互いの体温が混ざり合い、外気の冷たさが優しいぬくもりへと変わって行く。

 心の奥底を支配する甘い痺れは、私一人の身体で堪え切れるものではなくて。

 思わず先輩の袖をぎゅっと掴めば、一回り大きな彼の掌が重ねられた。

宇田川
宇田川
蘭子

 息の混じる声で、先輩は囁く。

宇田川
宇田川
もう、君を置いてどこかへ行ったりなんてしない

 返事をしようとした唇は、再び彼によって塞がれてしまう。

 それでも。

蘭子
蘭子
(私達は、きっと大丈夫)
 藍色の空に、満天の星々が現れるまで――

 私と先輩は、いつまでも互いのぬくもりを分け合った。