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第2話

ショムちゃんとボス
蘭子
蘭子
(まずい……!)
 血相を変え、私はバイクのそばまで近寄る。

 自転車がぶつかったせいで、バイクのフロント部分には一文字の大きな傷が付いていた。
 慌てて指で拭うが傷は遠目から見てもごまかせないほどにはっきりと付着してしまっている。
宇田川
宇田川
俺の大福になんか用?
 背後から突然投げかけられた声に、恐る恐る振り返る。
 バイクの持ち主を悟った瞬間、私は全身から血の気が引くのを感じた。

 三年二組出席番号三番、宇田川世那(うだがわせな)。生徒会が頭を悩ます雲母坂高校で編成される不良集団『キプリウス』のボスだ。ちなみに生徒会では彼に出会ったら、何も言わずにとりあえず逃げろと言われている。

 猫に追い詰められたネズミのような気分で動けずにいる私をよそに、彼は足取り軽く隣へ腰を下ろすとバイクの傷を覗き込んだ。
宇田川
宇田川
あー、派手にやったね
蘭子
蘭子
本当にごめんなさい。それ、直りますか……?
宇田川
宇田川
うん。直ると思うよ。でも、このくらいはかかるかな
 そう言って彼は指で四の形を作って見せる。
蘭子
蘭子
よっ……!?
 思わずちかちかと目眩がする。お小遣い何ヶ月分、いや何年分で返済できるだろう。
 背中に通学鞄を背負った彼は、私に向かって人懐こい笑みを浮かべた。
宇田川
宇田川
君、生徒会のわんちゃんだよね
蘭子
蘭子
わんちゃん?
宇田川
宇田川
よくムッツリメガネと一緒にいるところ見るよ
 独特な言い回しに、頭の中で理解する時間を要する。恐らく彼は私のことを、生徒会長に付いて回る犬だと言いたいらしい。それにしても橘先輩がムッツリメガネとは、万が一にも本人が耳にしたら由々しき事態だ。
宇田川
宇田川
名前は?
蘭子
蘭子
井瀬蘭子です。生徒会執行部の、庶務を担当しています
宇田川
宇田川
ふうん、『ショムちゃん』ね
 さして興味もなさげに相槌を打った宇田川先輩は、私ににやりと笑いかける。
宇田川
宇田川
良いこと思いついた。バイクの修理代は気にしなくていいよ。その代わり
宇田川
宇田川
俺のパシリになってよ。ショムちゃん
 万事休す。橘先輩ごめんなさいと、私は心の中で懺悔をした。
宇田川
宇田川
君の生活を邪魔するつもりはないよ。授業も生徒会の活動も、いつも通り取り組めば良い。だけど、俺が退屈したらいつでも君は遊び相手になること
蘭子
蘭子
どうしてそんなこと……
宇田川
宇田川
だって
 そう言って、彼は唇に柔らかな弧を描いた。
宇田川
宇田川
キプリウスが大嫌いな生徒会のメンバーが俺の言うこと聞くなんて、最高じゃない?
 走馬灯のように、キプリウスが起こした騒ぎの数々が蘇る。

 駅前で販売される一日十個限定のシュークリームを巡り、他校の生徒と乱闘を起こしたこと。
 家庭科室に七輪を持ち込んで焼肉をし、火災報知器とスプリンクラーが作動して水浸しになったこと。

 全ての騒ぎの裏には、組織のボスである彼の存在があるとまことしやかに囁かれている。
蘭子
蘭子
(私の高校生活、終わったな……)
 無邪気な彼の笑い声を聞きながら、私は胃が絞られるように痛むのを感じた。