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第21話

ショムちゃんとボスの過去

 初めて宇田川先輩に、『大福』こと――彼のバイクに乗せてもらった時のことを思い出す。

蘭子
蘭子
(あの時は先輩に振り回されてばっかりだったっけ)
蘭子
蘭子
(……って、今もだけど)

 バイクを飛ばして辿り着いたのは、人気のないお寺だった。

 車体から降りた私のかじかんだ手を先輩は当たり前のように握りしめて、境内へと続く石段をずんずんとのぼって行く。

蘭子
蘭子
あの……先輩?

 ためらいがちに声をかけるも、返答はない。
 迷いのない足取りを見るに、先輩にとっては慣れた場所なのだろうけど――

 彼が私をここへ連れて来た理由は、石段をのぼりきった後に知ることとなる。

蘭子
蘭子
……!

 本堂をぐるりと裏にまわると、現れたのは墓所だった。

 たくさんの墓石が並ぶ中、ひっそりと端の方に佇むお墓の前で、宇田川先輩は足を止めた。

宇田川
宇田川
ここ、父親の墓

 そう言われて、ぎゅっと胸がつまる思いがする。

蘭子
蘭子
……以前、すずさんに聞いたことがありました
蘭子
蘭子
先輩のお父さん、確か……
宇田川
宇田川
そう、病死。俺が小学五年生の時にね

 どう答えれば良いのか考えあぐねる私に反して、先輩は淡々と言葉を紡ぐ。

宇田川
宇田川
元々持病があって、それでも家族を支えるために夜遅くまで働いてた。疲れて帰って来ても、いつも俺の遊び相手になってくれたよ
宇田川
宇田川
父親が死んでから、ほどなくして母親は再婚した。会社の社長でさ。経済力も母親の再婚相手としても申し分ないけど、俺が生涯父親だと思える相手はこの人だけ

 浅くなる息を感じながら、私は隣に並ぶ先輩を見上げる。

 墓石に刻まれた文字を見つめる先輩は、晴れた日の海のように穏やかな瞳をしていた。

宇田川
宇田川
父親がいなくなってすぐの頃は、随分グレてたんだよね。家族にも迷惑かけたし、学校外の敵もたくさん作った
宇田川
宇田川
そんな俺に、メガネ――柊羽だけはしつこくつきまとって来てさ
宇田川
宇田川
『暇なら持て余した体力を正義のために使ってくれ』って。当時は何スカしたこと言ってんだと思ったけど

 寒さでわずかに赤くなった鼻をすすり、先輩はこちらを向いた。

宇田川
宇田川
まあ、柊羽の言うことは聞いて良かったと思う
宇田川
宇田川
だってこの高校に入らなければ、ショムちゃんにも出会えなかった訳でしょ
蘭子
蘭子
っ……

 ストレートな言葉を投げかけられ、耳が熱くなるのを感じる。

 返答を誤魔化すように私は先輩から視線を逸らすと、墓石に向かって手を合わせた。

蘭子
蘭子
宇田川先輩のお父さん初めまして。井瀬蘭子と言います
蘭子
蘭子
先輩にはいつも迷惑ばっかりかけられてます。お父さんからもちょっとおきゅうをすえていただきたいくらいです

 「何それ」と鼻白む先輩をよそに、私は続ける。

蘭子
蘭子
私……実際にお会いしたことはないですが、お父さんがどんな人だったか、なんとなく分かる気がします
蘭子
蘭子
優しくて、強くて……多分、大切な人のことを、自分を犠牲にしてでも守るような方だったんだと思う
蘭子
蘭子
わかる理由は簡単で――
蘭子
蘭子
お父さんの息子である宇田川先輩が、そんな人だから

 隣で小さく息を呑む気配がするのを感じながら、私は呟いた。

蘭子
蘭子
どうか、先輩のこと……天国で、ずっと見守っていてあげてください
蘭子
蘭子
それで、もし先輩が誰かのために道を違えそうになったら、教えてあげてください
蘭子
蘭子
先輩を愛している人は、この世にたくさんいるんだって

 ゆっくりと顔を上げると、先輩は驚いたような表情でこちらを見つめていた。

宇田川
宇田川
……
宇田川
宇田川
……ショムちゃんは、本当に――

 薄い色の瞳が躊躇うように揺れて――
 聞きたかった答えを言う代わりに、先輩は「ありがとう」と小さな声で呟く。

 ざあっと木枯らしが吹き、私達の足元に咲く雛菊の花が静かに揺れた。