テストが終わり、高校では冬休みへ向けていつも通りの生活が再び始まった。
生徒会の活動も再開され、私もいつも通り『庶務』としての仕事をこなす日々だ。
そう言えば、最近駐輪場に停められた自転車が、以前より綺麗に整頓されるようになった。
それでも生徒会の涙ぐましい啓蒙活動が実を結んだと思えば、素直に喜ぶべきだろう。
寂しさを少しだけ胸の内に抱えたまま、私は自転車置き場を後にした。
* * *
校内での仕事を一通り終えて生徒会室へ戻って来ると、室内の執務机で作業をしていた橘先輩が顔を上げた。
部長会議と言えば、橘先輩が月1で主催する会議だ。
各部活動の部長から日頃の活動で不便に感じていることや足りない備品などをヒアリングすることが目的で、先輩が熱心に取り組んでいる業務の一つだった。
部活動をより良いものにして行くことが目的のため各部からの評判も概ね高く、私の記憶では先輩がこれまでに会議に参加しなかったことは一度もない。
仕事を任せてもらえるのは嬉しいものの、珍しく歯切れの悪い彼の物言いにわずかに引っかかるものを感じる。
とは言え格下の分際で深く追及することもできず――
先輩が私に仕事を任せた真相は、結局翌日に知ることとなるのだった。
* * *
昼休み、実里のクラスへ行こうと立ち上がると、タイミング良く本人からメッセージが届いた。
生徒会室や食堂ならともかく、階段の踊り場を指定される理由は思い当たらない。
弁当を片手に階段を登って行った私は、目の前の光景に思わず足を止めた。
踊り場には、実里のほかに――
眼光鋭いキプリウスのメンバーが、私を待ち構えていた。
俯きがちに口を開く実里に、心の中がざわりと不穏な音を立てる。
言いかけた私に、キプリウスのメンバーの一人が答える。
慌てて踵を返そうとした私を、「待って!」と、実里の声が追いかける。
いつになく真剣な表情で、彼女は続けた。
実里の言葉に、はっとして目を見開く。
実里だって、生徒会長のことが心配なのだ。
思わず呟くと、彼女は「うん」と小さく頷いた。
実里に尋ねられ、思わず腕を組んで考え込む。
とは言え、お互い腕っぷしが良い訳でもなくて。
唸りながら顔を上げれば、キプリウスのメンバーの一人と目が合う。
瞬間、頭の中に一筋の光がさした。
生徒会と、不良集団キプリウス。
立場は違えど、ここへ集う理由は誰もが同じはずだった。
――皆、大切な『仲間』を守りたいから。
真剣な表情でこちらをじっと見つめる一同に、私は語り掛けたのだった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。