週明けの月曜日。
私は宇田川先輩に呼び出され、ようかんサンドを買いに走らされた先週と同じく非常階段に立っていた。
突然ぽんと放られた包みを慌ててキャッチする。
袋に書かれた店の名前に既視感を覚え、急いで包みを開けると中からグレーのマフラーが出て来た。
驚く私を前に、階段に座る先輩は頬杖をついてにっこりと笑う。
先輩のからかうような物言いに、頬が一気に熱を帯びる。
今日はどんな面倒事を言いつけられるかと思ったが、先輩はちらりと傍らに置いたスマートフォンの画面を見ると私に向ってひらひらと左手を振った。
本来は喜ぶべきなのに、どこか物足りないような気持ちになってしまうのは何故だろう。
とは言え長居をする理由も勇気も持ち合わせていなかった私は、「ありがとうございます」と短く礼の言葉を伝えると非常階段を後にした。
廊下を歩いてほどなくしたところで、階段を登ってやって来た人物に私は反射的に姿勢を正す。
昼休みの巡回は生徒会内では定められた仕事ではないため、恐らく自主的に実施しているのだろう。
橘先輩は、眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせて私を見下ろした。
図星をつかれ、どきんと心臓が音を立てる。
咄嗟の言い訳が思いつかずにまごつく私の前で、先輩は小さくため息をついた。
先輩の後ろ姿を眺めながら、なんとかやり過ごせたことにほっと胸を撫でおろす。
そんなことを考えて、はっとする。
先刻、橘先輩は『月曜日の昼休みは校内を巡回すると決めている』と話していた。
仮に私が敵対組織のボスである彼といるところを、生徒会長に見られないようにするためだとしたら。
そう思った瞬間、胸の奥を言いようのないもどかしさが波のように打ち寄せる。
やり場のない想いに、私は胸元でぎゅっとマフラーを握りしめた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。