昨日の帰り道のことを思い出しただけで、恥ずかしさで顔から火炎放射を噴き出せそうだ。
ただでさえ常軌を逸した行動で名高い宇田川先輩に変人扱いされるなど、もはや不名誉以外の何者でもない。
盛大なため息と共に書類の山へ突っ伏した私の隣で、実里が困ったような声を上げた。
自分に言い聞かせるように呟き、再び黙々とホチキス留めを再開する。
そんな私を眺めながら、「相変わらずだなあ」と実里は笑った。
当たり障りのない返事をしてみるものの、「でもさ」と彼女は身を乗り出した。
そう言って実里は再び視線を帳簿へ戻す。
これ以上詮索されることはなさそうでほっとしつつも、私の頭の中には数年前の光景が蘇った。
できることなら永遠に忘れ去ってしまいたい、苦い記憶だ。
クラスメイトに傘を隠され、土砂降りの中を走って帰ろうとした私に、橘先輩は無表情で折り畳み傘を差し出した。
それでも、と脳内に浮かびかけた後ろ姿を私は首を振って打ち消す。
いくら下っ端とは言え、私は生徒会のメンバーだ。
組織のトップに立つ生徒会長に忠誠を近い、校内の安全と平穏を乱す者には正面から立ち向かわなくてはならない。
例え、それがキプリウスの『ボス』であろうと。
不安げにな実里の声で我に返り、私は慌てて作業が完了した書類の束をとんとんとまとめる。
ちくりと痛む気持ちを誤魔化すように、私は無理に作った笑顔を実里へ向けたのだった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。