「 自分、今ちょっとホッとしたやろ。俺の顔見んで済むと思て、安心したんか? 」
『 そのようなことは… 』
「 嘘つけ。顔に出とんねん、アホ 」
直哉は不機嫌そうに立ち上がると、袴の乱れを無造作に整える。そして、部屋を出ようとする間際、跪いたままのあなたを振り返り、意地悪く目を細めて言い放った
「 勘違いすんなよ。お前を解放したわけやないからな。…俺が戻ってくるまで、どっこも行くな。もし他の奴の茶ぁ淹れとるの見つけたら、その時はほんまに承知せぇへんからな 」
直哉はそう言い残すと、不機嫌な足取りで部屋を出て行った。残されたあなたは、彼が去った後も肩に残る熱と、彼が最後に向けた独占的な視線の余韻に、しばらくその場から動くことができなかった
空になった二つの湯呑みを盆に載せる。
あなたが、直哉の座っていた座布団の皺を丁寧に伸ばし、ようやく立ち上がろうとしたその時。…ピシャリ、と音を立てて襖が開いた
『 っ!? …直哉、様? 』
そこには、さっき出ていったはずの直哉が、片手を腰に当てて立っていた。案外早く戻ってきた彼に、あなたは手に持っていた盆を落としそうになるほど驚いて固まる
「 なんや、自分。ほんまにまだおったんか 」
直哉は部屋に入るなり、不敵な笑みを浮かべてあなたを上から下まで眺めた。
『 え、ええ。片付けを、しておりましたので。…すぐにお暇しようと思って 』
「 嘘つけ。片付けなんて、とっくに終わっとるやろ。俺が ”どっこも行くな” 言うたから、律儀に震えて待っとったんやろ? ほんま、可愛いとこあるやん 」
直哉は歩み寄り、あなたが整えたばかりの座布団に、わざと乱暴に腰を下ろした。そして、逃げようとするあなたの着物の裾を、指先でひょいと引っ掛ける
『 …っ。…あ、あの、当主様のお話は 』
「 あんなん、すぐ終わらせてきたわ。…あーあ、せっかく戻ってきてやったんに、そんなに嫌そうな顔すんなや。…ほら、そこ座れ。さっきの続き、まだ終わってへんやろ? 」
直哉はそう言って、自分の隣の畳を軽く叩く。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。