第35話
十日目 晴斗
俺は今日学校に行きたくなくて休んだ。
訳ではない。
別に休むつもりはなかった。
学校に行く前、真珠の家によったら真珠のお母さんに捕まっただけだ。
真珠のお母さんは、このことを知っていたそうだ。
そりゃまあ葉桜家の先祖がやったことだし、真珠が知ってたんだし当たり前かもだけど。
意味がない...?
知ってほしかった.....か。
その為に巻き込んだとか無責任なやつだ。
でも...
誰だってきっとそうだ。
誰かに覚えていて欲しい。
忘れないで欲しい。
記憶に残りたい。
この世に生きていた証を、証人をつくりたい。
そういう存在がいるだけでなんとなく安心できる。
きっと吸血鬼にはそういう存在がいなかったんだ。
吸血鬼の存在を知っているのは葉桜家だけ。
その葉桜家は真珠の代で途絶える。
そしたら、吸血鬼はおとぎ話の登場人物になって、実際にはいなかった事になってしまう。
そうはさせない。
それじゃ、吸血鬼は救われない。
例えこれから人として生きていけても、吸血鬼の心が救われる事はない。
それでは駄目なんだ。だから、俺が覚えていてやらないといけない。
吸血鬼を殺さない為に。
それに、真珠のことも。
真珠が最後に見せてくれた今まで見た中で一番美しい、桔梗のような笑顔を
俺は絶対に忘れない___。