第32話
十日目 華鈴
私は気付いたら家に居た。
昨日の記憶は嫌という程覚えている。
忘れる訳がない。
忘れさせてくれない。
葉桜先輩の笑顔、
桔梗の花のような、美しく咲く桔梗の花の様な、笑顔...
忘れたい。
忘れちゃダメ。
忘れたい。
忘れちゃダメ。
忘れてはいけない。
筈なのに...
忘れたい。
忘れちゃダメ。
忘れたい。
忘れちゃダメ。
...忘れたいよっ!
全部忘れたい。
能力の事も、吸血鬼の事も、代償の事も、葉桜先輩の事も、
全部、全部、全部っ!!!
そしたらきっと楽になれるのに...
_______________
私はその日、学校に行く気になれず、学校を休んだ。
初音が何度か連絡をくれたが、全部無視した。
今は、誰の声も聞きたくなかったのだ。
そしたらきっと楽になれるのに...
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私はその日、学校に行く気になれず、学校を休んだ。
初音が何度か連絡をくれたが、全部無視した。
今は、誰の声も聞きたくなかったのだ。
ピンポーン
あ、誰か来た。
お母さんが遠慮がちにドアの外から声を掛けてくる。
きっと、初音だろう。
わざわざ家まで来るなんて。
心配してくれてるのは嬉しいけど、今は1人にして欲しい。
.......あれ
今の声、初音じゃない...?
あ....
浜田先輩だ。
浜田先輩なら会ってもいい...かな?
ガチャ
そういえば、男の人部屋に入れるの初めてかも。
前、浜田先輩が来たときはリビングだったし。
浜田先輩は中に入ると部屋のドアを閉め、ドアに寄りかかるように座った。
即答ですか。
分かっているなら聞かないで下さいよ。
浜田先輩はそう言って一呼吸おくと、衝撃的な事を言った。
浜田先輩、凄いな。
私には学校に行く勇気すらなかったのに。
あ、そっか。
浜田先輩は聞いたことないんだ。
葉桜先輩の声を。
少しの間、沈黙が続いたがすぐに浜田先輩が口を開いた。
そう言われて、私ははっと顔をあげた。
きっと私の顔は醜く、汚い顔をしているだろう。
でも、私の目に移った浜田先輩の顔は、驚くほど優しくて、綺麗だった。