第31話
九日目;華鈴
その言葉を聞いた途端に芹澤先輩がまた大声を出した。
そう言った時の芹澤先輩は今までにないくらい、険しい表情をしていた。
それに比べて葉桜先輩は冷静な表情をしている。
少し安心しているようにも見える。
そんな、理不尽な理由で...
私、私なら変わりになれる!!
私は能力を貰ったのは随分前だった筈だし、代償だってまだある!
“変わりになる”
そう言う前に誰かに口を塞がれた。
浜田先輩だ。
葉桜先輩がこっちに近づいてくる。
私の前までくると葉桜先輩はふっと笑みを溢した。
そう言って、葉桜先輩はまた笑った。
まるで桔梗のような美しく、優しい笑顔だった。
葉桜先輩は後ろを向くと今度は芹澤先輩のところに歩いていった。
芹澤先輩は全く笑わなかった。
葉桜先輩は一呼吸おいてから言った。
真っ直ぐに芹澤先輩を見つめる葉桜先輩とは逆に芹澤先輩は葉桜先輩と目を合わせようとしなかった。
離れていたからなんて言ったか聞き取れなかったけど、葉桜先輩には聞こえたらしい。
でもなんのリアクションもなくエルの声が聞こえていた方を向いた。
葉桜先輩がエルに呼び掛ける。
少し間を開けて葉桜先輩が言った。
そう言うと葉桜先輩の目の前に扉が現れた。
葉桜先輩はその扉を開けて、一歩足を踏み入れる。
もう皆なにも言えなくてただ黙って見つめていた。
葉桜先輩はそのままなにも喋らずに、振り返らずに歩いていってしまった。
葉桜先輩の姿が見えなくなると、扉は自動的に閉じた。
皆唖然とその扉を見つめていた。
少しすると小さな泣き声が聞こえてきた。
芹澤先輩だ。
幼馴染みが黙って目の前から消えてしまう。
きっともう会うことは出来ないなんて...
どれくらい辛いこのなのか想像したくもない。
こんな辛い事、全て夢ならどれだけ嬉しかっただろう。
こんな辛い記憶、早く忘れてしまえればいいのに─────。