4月、桜の舞う頃。
1人の少年が、高校の新しい制服を見に纏い、「希良高校入学式」と書かれた看板と旗のかかった校門を潜る。
「おーい真斗!」
後ろから声を掛けられ、振り向く少年真斗は、走ってくる声の主を見るなり心底嫌そうな顔をする。
「…高校まで和馬と同じかよ…」
「別にいいだろ!?俺の夢の第1歩がこの高校なんだからよ!」
「あぁ…そう…冗談だけど」
ケロッとした顔で真斗はそう答える。
「いや冗談かよ!?」
彼は一之瀬和馬。真斗の従兄弟で、生まれた時からいつも一緒だ。
「とにかく早く行くぞ!」
「…分かった、分かったから声のボリューム下げてくれ」
いつもこの調子で、真斗は声の大きい和馬をたしなめるのだ。
「可愛い女の子居ねぇかなぁ〜?」
「…やっぱり目的はそれかよ…」
片手を額に当てて探すようにキョロキョロする和馬を見て、真斗は呆れた顔でそう言った。
「真斗、おはよう!
今日もいい天気だね!♪」
突然呼ばれて振り向く真斗。
女の子の声だ。
「…あぁ、はよ…弥亜」
真斗は声の主を見るなりぎこちない挨拶を交わした。
彼女の名前は荒木弥亜(ミア)。真斗の小学生の時からの幼なじみだ。
「相変わらず無愛想だね〜、そんなんじゃモテないよ?」
「…余計なお世話だ…」
「…あ、もしかして真斗…まだ2年前の事…っ」
弥亜は最後まで言いかけると両手で自分の口を塞いだ。
「……。」
真斗は何も答えず、反応もしなかった。
そう、真斗の思い出は、2年前のある事をキッカケに途切れ、笑顔を一切見せなくなったのだ。それだけには留まらず、当時は明るかった性格も、いつの間にか暗くなり、まるで心を閉ざすかのように、すっかり変わってしまったのだ。
「…ねぇ真斗。真斗はその事で今も後悔してるんだよね…?でも、私はそれで真斗が苦しむ姿は、見たくないよ…」
弥亜はそう言うと静かに俯き、涙を零した。
「……お前には関係ないだろ…。」
そんな捨て台詞を吐くと、リュックに付けた思い出の紙飛行機のキーホルダーを揺らしながら、真斗は校舎に向かって歩き出した。
「…真斗は、真斗はまだ、あの子のことが好きなんだ…。でも、それでも、私は……」
そう言うと静かに空を見上げ、自分の心臓部分を握りながら、目から出た雫が頬を伝い、遂には地面に落ち、地面を濡らし…
「…こんなに真斗の事が好きなのに…。」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。