よくミドルシュートを打つ位置に立って、数回ドリブルをつき、心を落ち着かせる。
1本目。
高い軌道を描いてボールはリングに吸い込まれていった。
……お、おぉ。
「喜ぶなよ?変な力が入るからな」
「や、むしろめっちゃ落ち着いてます……あんまり実感が湧いてない感じです」
「そうか。ん、いけ」
先輩がバスケボールを入れる専用のカゴからボールを一つ投げてくれる。
私はそれをキャッチし、流れるようにシュートを打った。
ボールは綺麗に回転しながら高く飛び、呆気なくネットをくぐり抜けた。
――なんか、夢のような気がしてきた。
夢ならいいや、と思って、私は無心でただ真っ赤なリングへシュートをし続けた。
9本目を打つ直前、あることに気付いた。
シュート、5本どころか今んとこ全部入ってない?
手からボールが離れ、ゴールネットを揺らす。
「ラスト」
二宮先輩がボールをパスしてくれる。
私は両手でキャッチしながらぼんやりと思った。
……これ入れたら、パーフェクトだ……。
ドリブルをつく。緊張と集中力が同時に高まり、頂点に達する。
そのタイミングで、ボールを掴んでシュート――
「すき」
先輩の声が聞こえた。
「!?」
思いっきり力んだ。飛びすぎたボールがボードに当たって跳ね返る。
えっ……す、すき!?!?
「先輩!?急に何を」
「焼きって美味しいよなー」
……やき?美味しい?
すき、と、やき……。美味しい。
私はその意味を理解し、一気に赤くなった。
「そ……そういう邪魔ありですか!?」
「はははっ!こうなると思った!」
お腹を抱えて大声で笑う先輩。
恥ずかしさに耐えられない私は、とにかくめちゃくちゃ先輩を責め立てた。
「何なんですかもう!!ありえないです!すき焼き美味しいですけどこういう使い方はダメです!!」
「こういう使い方って!はははは」
「先輩……!!」
まだ笑っている先輩を見て止められないと悟り、私は諦めることにした。
一瞬、期待した自分の影は、きっと見て見ぬふりがいい。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。