第8話

本当に意地悪
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2018/05/31 15:03
よくミドルシュートを打つ位置に立って、数回ドリブルをつき、心を落ち着かせる。

1本目。

高い軌道を描いてボールはリングに吸い込まれていった。

……お、おぉ。

「喜ぶなよ?変な力が入るからな」

「や、むしろめっちゃ落ち着いてます……あんまり実感が湧いてない感じです」

「そうか。ん、いけ」

先輩がバスケボールを入れる専用のカゴからボールを一つ投げてくれる。

私はそれをキャッチし、流れるようにシュートを打った。

ボールは綺麗に回転しながら高く飛び、呆気なくネットをくぐり抜けた。

――なんか、夢のような気がしてきた。

夢ならいいや、と思って、私は無心でただ真っ赤なリングへシュートをし続けた。


9本目を打つ直前、あることに気付いた。

シュート、5本どころか今んとこ全部入ってない?

手からボールが離れ、ゴールネットを揺らす。

「ラスト」

二宮先輩がボールをパスしてくれる。

私は両手でキャッチしながらぼんやりと思った。

……これ入れたら、パーフェクトだ……。

ドリブルをつく。緊張と集中力が同時に高まり、頂点に達する。

そのタイミングで、ボールを掴んでシュート――


「すき」


先輩の声が聞こえた。

「!?」

思いっきり力んだ。飛びすぎたボールがボードに当たって跳ね返る。

えっ……す、すき!?!?

「先輩!?急に何を」

「焼きって美味しいよなー」

……やき?美味しい?

すき、と、やき……。美味しい。

私はその意味を理解し、一気に赤くなった。

「そ……そういう邪魔ありですか!?」

「はははっ!こうなると思った!」

お腹を抱えて大声で笑う先輩。

恥ずかしさに耐えられない私は、とにかくめちゃくちゃ先輩を責め立てた。

「何なんですかもう!!ありえないです!すき焼き美味しいですけどこういう使い方はダメです!!」

「こういう使い方って!はははは」

「先輩……!!」

まだ笑っている先輩を見て止められないと悟り、私は諦めることにした。


一瞬、期待した自分の影は、きっと見て見ぬふりがいい。

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