「お前、最近よくあの子と居残りしてるよな」
思い出したように対面の人物が言った。
俺はフッと口角を上げ、そいつに答えた。
「あぁ。見てられなかったからな。あいつ、すげぇ良いシュートフォーム持ってたのに自分で壊してたから」
「それだけか?二宮」
「どういう意味ですかキャプテン?」
にやりと笑われたので、にやりと笑い返す。俺の行動に、男バスのキャプテンでありクラスメイトの原田(はらだ)はため息をついた。
「分かって聞いてんだろ」
「まぁな。正直好きかはわかんねぇけど、いじめたくなるんだよなーあいつ」
恋愛的な意味じゃなければ、好きだと思う。一緒に過ごしていて飽きないし、何とも言えない可愛さもある。
そう。あいつは“可愛い後輩”なのだ。
口元を綻ばせて高崎を思い浮かべていると、原田が二度目のため息をついた。
「まぁいいけどよ。もし高崎が誰かに告白されても、お前は文句言えねぇぞ」
「言う気ねぇよ。個人の自由だろ」
「……あっそ」
「なんだよ」
「別に」
原田はそう言って、床に置いていた水筒を持ち上げ、中のお茶を飲んだ。
“何か”あるような空気を感じたが、気のせいだろうか。
尋ねようかと思った時、始業のチャイムに邪魔をされた。
……ま、いいか。大したことじゃないだろ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!