翌朝。
私は教室の自分の席にスクバを下ろし、左斜め前の席で本を読むるーちゃんへ話しかけた。
「るーちゃんおはよう。早速ですが報告です」
「おはおはー。なに?」
るーちゃんが本を閉じて振り返ってくる。私たち以外の人も教室内にいたので、私はスマホで文章を打ってるーちゃんに見せた。
察したらしく、るーちゃんは黙読してくれた。
『二宮先輩のこと好きみたい』
「……おぉお!?昨日の今日でか!!」
「うん……なんかごめんね」
「え、なんで謝んの。気にすんなし!はっきりしてよかったじゃん!」
大きく笑うるーちゃん。
改めて、いい人だなぁと思った。
「そんじゃあとは告白するだけだね!ふぁいてぃん!」
「えっ!?え、展開早くない!?」
「そお?こういうのはね、早く言っといた方がいいんだよ。迷ってるうちに他の子に告白されたりとかあるんだから」
ほら、二宮先輩人気あるし、とるーちゃんは付け加える。
確かに一理あるけど……。
「そんな勇気ないわ……」
「だろーね。あたしも絶対無理だわ」
なんて、からりと笑う。
真面目に相談しているのにふざけられているようで、私はジト目でるーちゃんを見た。
「……じゃあなんで言ったの」
るーちゃんは間髪入れずに答えた。
「“一番”を奪(と)るには、みんなができないことをするしかないから」
はっとした。
一瞬、真剣な顔つきだったるーちゃんがにこりと笑った。
「頑張れ。昨日あんたに告白した河野くんみたいにさ」
「……うん。うん?あれ、私そのことるーちゃんに言ってないよね?」
「いやー練習後の体育倉庫で告るなんて河野くんも大胆だねぇ。出るに出れなくなって隠れてましたって夏帆(かほ)ちゃんが言ってたよ」
「夏帆ちゃん!?最近入った男バスのマネージャーの!?え、じゃあ二宮先輩が来たとこも全部……?」
「見てたみたいよ?あんたの表情はちょうど自分の方に背中向いてて見えなかったってよ。よかったね」
「……うそだ……」
恥ずかしさに顔を片手で覆う私に、るーちゃんが笑いながら「ほんとー」と言った。
ともあれ、告白か……。頑張ってみるかな。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。