「ほーん。よかったねぇ」
私の話を終始にやにやしながら聞き終えたるーちゃんがそう言って笑った。
私の話というのは、まぁ、昼休みのことだ。教室だと人目があるので、部活が終わってから話そうと決めていた。
――包み隠さず話すの恥ずかしかったけど、やっぱり言ってよかった。
そして、話したことでいろいろ思い出した私は、両手で顔を覆って、はぁー……と息を吐いた。
「先輩さ、本当Sなのよ……ファーストキスを意識する間もなかったわ」
「おー……それさ、あたし聞いてて思ったんだけど」
「ん?」
顔から手を外してるーちゃんを見る。るーちゃんはにやりとして言った。
「先輩、単にあんたとキスしたかっただけじゃない?」
「……えっ!?」
ボンッと顔が沸騰する。
た、単に私とキスしたかっただけって……!
「そっ、そんなわけないよ!!私がすぐ名前呼びできなかったから罰みたいな感じで……」
「うん。そうやって罰に見せかけといて、実はその罰が本命だったのよ。あんたが名前呼びをすぐにできないことを分かってたから」
……な、なるほど。そういう考えもあるのか……。
理屈は分かったが、やはり違う気がした。先輩ならストレートに言ってきそうだから。
「甘いなひかりん。意外と本命には弱いタイプだよあれは。ま、あたしの勘だけどね」
「言い切った後に保険かけないでよ……ますますわかんなくなるよ」
「あはは。あんたはわかんないままがいいよ」
「どういうこと……」
からからと笑うるーちゃんを前に、私はうなだれるしかなかった。
体育倉庫の扉のそばで、中から漏れてくる“るーちゃん”の笑い声を聞きながら呟く。
「あいつ怖ぇ……」
「どうした二宮」
「何でもねぇ」
原田に平然を装って答え、俺はため息をついた。
キスの口実、次は何にするかな……。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!