今日も、俺は海の元にいつも通り通う。毎日、会っても毎日違う新鮮な驚きがある。こんなこと、本当に初めてだ。
返事がない。いつもなら、嬉しそうに飛び出てきてくれるはずのんだが。
ガシャンッ
部屋の奥から激しい音がした。
扉に鍵は掛かっていない。俺は、家の中に入る。
海が床に倒れて胸を押さえて苦しんでいる。額に、汗を浮かべて。
俺は、海に駆け寄り体を抱き起す。
海が胸元の辺りを苦しそうに掻く。
俺は、海のブラウスのボタンを3つ開けた。海の白い胸元に、青い鱗の模様の様な刺青が浮き上がっていた。
海が冷たい手で俺の頬を触る。
海が力無く笑う。 頭の血が一気に下がっていく。
海の体を見ると、刺青はあらゆるところから浮かび上がってくる。足の先から、指の先。
海が俺の腕の中で、目を閉じた。
どうして、こんなことに……
ベットの上の海が目を覚ます。
分かっている。こんな嘘を吐いても、もう遅いかもしれない。でも、少しでも可能性があるなら言わずにはいられなかった。
海が俺の髪に優しく触れる。
気を抜いたら涙が溢れそうだ。絶対に、海に泣いているところなんて見せたくない。
だめだ。そんなこと言ったらダメだ……
海の姿が霞んで見えない。
涙が止まらない。拭っても、拭っても、止められない。
優しい花の香りがする。俺は、海の胸に抱き締められている。海の小さな体が俺を必死に強く抱き締めてくれる。
俺を抱き締める腕が震えている。
俺を抱き締める海の腕に力が入る。
海の声が震えている。
俺は顔を上げて、海の顔を見る。
静かに海の頬を涙が流れていく。
俺は、涙で濡れた海の頬に触れる。驚くほどに冷たい。
最低だ、俺。
泣き笑いのように表情の海。
俺は、ゆっくりと海の唇にキスをした。
この先に待っているのは、地獄でしかない。俺は、彼女を殺してしまうんだ。でも、きっと海は許してくれてしまうのだろう。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。