昼とは違う海風が肌を撫でる。少し、まとわりつくような優しい風。
きっかり、深夜零時。満月が少し雲に隠れて、暗い。その中で、海の中に小さな岩がポツンとある。その上に、月を見つめる海が座っている。
俺は海の元に駆け寄る。
雲に隠れてた月が姿を現す。海の白い肌が青白く照らされる。海がゆっくりと振り向く。
海の美しい顔が歪む。
俺は、言葉が出なかった。
月明りに照らされた白い足に青い鱗が肌の内側から浮き出てくる。つま先が大きな魚の尾ひれに変わっていく。
海の足が完全な魚の足に変わっていた。
化け物……
そう言う彼女の表情はとても悲しそうに見えた。
俺は、この場から逃げるべきだろう。でも、何故か逃げたいなんて思えなかった。俺を殺すって言う彼女の辛そうな表情を放ってなんかいられないから。
俺は、たまらず海に入る。
膝まで海に浸かる。冷たい筈なのに、何も感じない。むしろ、体の芯から熱くなっていくようだ。
俺は、海の前に膝を付き青い鱗に触れる。
指先や手の平からひんやりとした感触が伝わる。海が息をのむ。
その瞬間、俺の世界が反転した。
細い指が俺の首を絞めていく。薄っすらと、青い瞳と白い月が見える。
俺は反射的に海の手首を掴んだ。
震えている。この手から本気の殺意なんか感じない。むしろ、怯えているようだ。
苦しい。嗚呼、しょっぱい……
ザバッ
海が細い腕で、俺の上半身を引きずって浜辺に運ぶ。仰向けで寝かされる。
海の大きな青い瞳から大粒の涙が零れ落ちていく。
やっぱり、本気じゃなかったんだ。少し、嬉しいかもしれない。
海が声を上げて泣き始める。
海は両手で顔を覆って、肩を震わせながら泣く。
月が雲に隠れる。
海の顔が苦痛に歪む。俺は、飛び起きて海の足を見る。
鱗が花びらの様に剥がれ落ちて、白い足に戻る。
俺は、肩で息をする海の肩に触れようとするが振り払われる。
そうなのかもしれない…… これ以上海に関わらない方が彼女の為なのか?
そう呟いた海の表情は見えなかったが言葉とは裏腹に、寂しそうに聞こえたのは俺の願望だろうか。
海は立ち上がるが、足が震えて崩れるように膝をつく。
海は、俺を押し退ける様に立とうとするがよろめき転ぶ。
俺は、見ていられなくて海の体に腕を回して抱き上げる。
俺の腕の中で海が暴れる。
思ったよりも海は軽くて、細くこの腕に力を入れたら直ぐにでも壊れてしまいそうだった。
海の動きが止まる。
躊躇うように俺の首に腕を手を回してくる。
やっぱり、俺は彼女を離したくない。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。