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第3話

海のセレナーデ
    柄にもなく、浮かれているのかもしれない。こんな、気持ちは初めてだ。彼女に会うことがこんなにも楽しみになるとは。
    俺は教会の前に自転車を停める。
海……
    自転車で乱れた髪を申し訳ない程度に、手で撫でつける。
よし……行くか
    鞄から借りたハンカチと学校の近くの洋菓子店で、買った焼き菓子の紙袋を取り出す。
    少し、汗ばむ手で教会の扉を開ける。
お邪魔します……
    恐る恐る中を覗く。
神父
おや、どうしました?
    老齢の神父が奥から出て来る。
あの、海さんいますか?
    神父が、ああっと納得したような顔をする。
神父
海は今日出掛けていますよ
そうですか。何時頃、帰って来ますか?
    神父は少し困ったような顔をしている。
    どこか、引っ掛かる。
ここで待っていてもいいですか?
神父
……構いませんよ。何もおもてなしは出来ませんが
    神父はどこか戸惑った様子だった。



三時間。俺は椅子に座り十字架に見守られながら、本を読む。そろそろ、読み終わってしまいそうだ。
    色とりどりのステンドガラスや窓から、夕日が差し込んでくる。
神父
まだ、いたのですか
返しに行くって言ったので
    俺は、手の中にあるハンカチを見つめる。
神父
もう、今日は遅い。暗くなる前に帰りなさい
分かりました。なら、これ海さんに渡してください
    俺は、焼き菓子の入った紙袋を神父に渡した。神父が少し困ったように眉を下げる
神父
分かりました。渡しておきます
ありがとうございます。明日も来ます



そして、次の日も違う焼き菓子を持って来たが海は現れることはなかった。
    次の日も、その次の日も、海は来ることがなく今日で5日目になった。
神父
海は今日も来ませんよ
そうだと思います。でも、もう一度彼女に会いたいんです
神父
なら、浜辺に行ったらいい。運が良ければ会えるかもしれません
ありがとうございます



俺は、神父のその言葉を理解できなかった。

はぁ、はぁ、

    俺は、浜辺へと走った。
    波の音と美しい歌声が聞こえてくる。
アメージング・グレースか……
    なんて、優しくて悲しい歌声なんだ。
    引き寄せられるように、浜辺に行くと砂浜に座りながら歌っている海の姿があった。黒いロングワンピースに、黒く流れる長い髪。
    白い頬に伝う涙が見えた。
どうして、泣いているの?
    海が驚いたように、振り向く。海は、立ち上がり俺から逃げようとする。
待って、逃げないで
    俺は、海の細い手首を掴む。
お願い、逃げないで
    離したくない。
こっち見て
    海の顔が上がる。目の周りが仄かに紅くなっている。
どうして、泣いているの? もしかして、俺のせい? 俺が毎日、教会に来るのは迷惑だった?
    焦りの所為か口数が多くなってしまう。
ち、違う。迷惑なんて思ってない。でも、貴方には会えなかった
    黒い髪が海の顔を隠す。
どういうこと?
貴方を見ていると昔のことを思い出して、辛くなるの
    砂に、海の涙が零れ落ちていく。
お願い、もう私に会いに来ないで。私のことを忘れて
    脳天を殴られたような衝撃だった。
    今まで付き合った人からどんなことを言われても平気だった。なのに、海から拒絶されると胸が苦しくなる。
    そうかこれが、この気持ちが……
嗚呼、そういうことなのか
え?
俺は……君のことが好きなんだ。最初は、この想いが何か知りたくて君に会いたいだけだと思っていた。でも、違うんだ。俺は、君のことが好きなんだ
    海が悲しそうな表情をする。
なんで、私なの……
君だから好きなんだ
    俺は海の冷たくなった手を握る。
なら、明日の夜零時にここに来て。そしたら、私のこと好きなんて言えなくなるから
どういうこと?
来たら分かる
    海は、俺の手を引き離して教会の方に走って行った。
明日の夜零時……