柄にもなく、浮かれているのかもしれない。こんな、気持ちは初めてだ。彼女に会うことがこんなにも楽しみになるとは。
俺は教会の前に自転車を停める。
自転車で乱れた髪を申し訳ない程度に、手で撫でつける。
鞄から借りたハンカチと学校の近くの洋菓子店で、買った焼き菓子の紙袋を取り出す。
少し、汗ばむ手で教会の扉を開ける。
恐る恐る中を覗く。
老齢の神父が奥から出て来る。
神父が、ああっと納得したような顔をする。
神父は少し困ったような顔をしている。
どこか、引っ掛かる。
神父はどこか戸惑った様子だった。
三時間。俺は椅子に座り十字架に見守られながら、本を読む。そろそろ、読み終わってしまいそうだ。
色とりどりのステンドガラスや窓から、夕日が差し込んでくる。
俺は、手の中にあるハンカチを見つめる。
俺は、焼き菓子の入った紙袋を神父に渡した。神父が少し困ったように眉を下げる
そして、次の日も違う焼き菓子を持って来たが海は現れることはなかった。
次の日も、その次の日も、海は来ることがなく今日で5日目になった。
俺は、神父のその言葉を理解できなかった。
はぁ、はぁ、
俺は、浜辺へと走った。
波の音と美しい歌声が聞こえてくる。
なんて、優しくて悲しい歌声なんだ。
引き寄せられるように、浜辺に行くと砂浜に座りながら歌っている海の姿があった。黒いロングワンピースに、黒く流れる長い髪。
白い頬に伝う涙が見えた。
海が驚いたように、振り向く。海は、立ち上がり俺から逃げようとする。
俺は、海の細い手首を掴む。
離したくない。
海の顔が上がる。目の周りが仄かに紅くなっている。
焦りの所為か口数が多くなってしまう。
黒い髪が海の顔を隠す。
砂に、海の涙が零れ落ちていく。
脳天を殴られたような衝撃だった。
今まで付き合った人からどんなことを言われても平気だった。なのに、海から拒絶されると胸が苦しくなる。
そうかこれが、この気持ちが……
海が悲しそうな表情をする。
俺は海の冷たくなった手を握る。
海は、俺の手を引き離して教会の方に走って行った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。