俺はコーヒーの入ったカップをテーブルに置き、目の前で楽しそうに他愛のない話をする彼女の話に適当に相槌を打つ。
女性客とカップルの多いカフェ。正直、苦手だ。
彼女の顔から笑顔が消える。
彼女が深いため息を吐く。
彼女の瞳から涙が溢れてくる。
図星だ。返す言葉もない。
バシャッ
いきなり、目の前がオレンジ色になった。どうやら、彼女が飲んでいたオレンジジュースを掛けられたらしい。
だから、女は苦手なんだ。
彼女が乱暴にコップをテーブルに置く。
滴り落ちるオレンジジュースが目に入って沁みる。
ふと、窓の外の通行人と目が合う。その人は、灰色のベールを被ったシスターだった。
そのシスターは、海を写したような青い瞳をしていた。俺の方を見て、少し口元に笑みを浮かべている。
彼女は鞄を持って店を出て行ってしまった。
女性店員が乾いたフキンを持って来てくれる。
有難く使わせてもらう。周りの好機の視線が痛い。
とにかく、店を出るか。
プルルルルッープルルルルッー
ポケットの中の携帯端末が鳴り、画面に母と出てくる。
まだ、何か言いたそうだが通話を切る。
ブレザーとシャツにネクタイ、スラックス上から下までオレンジの匂いだ。
ステンドグラスと十字架。大きな白いピアノ。
参列客も揃い、老齢の神父が祭壇に立つ。タキシードに身を包んだ新郎も緊張した面持ちで新婦を待つ。
ピアノの演奏者と灰色のベールをかぶったシスターが入って来る。
昨日のシスターだ。あの、青い瞳に雪のように白い肌。質素なシスターの装いが、一層彼女の美しさを際立たせる。
ピアノの音色が教会の天井に響き渡る。曲は、賛美歌429番「愛の御神よ」結婚式の定番の曲だ。
一瞬、シスターの視線が俺の方を向いて青い瞳と目が合った。シスターが深く息を吸う。
その瞬間、俺の中で時が止まった。
細い首から発せられるソプラノの歌声。教会全体に響き渡る。教会が一層神秘的な空間に感じられる。
教会の扉が開き新婦が身廊をゆっくりと歩んでくる。みんなが新婦を見つめる中、俺はシスターから目が離せなくなっていった。
俺の口から自然と零れ落ちた。
新婦が祭壇まで辿り着いたところで、シスターの歌が終わってしまう。
神父の声が教会に木霊する。
シスターは静かに教会から出て行ってしまった。
追わないと。義務感のような気持に駆られて椅子から、静かに立つ。
俺は、短く返しシスターを追って教会を出た。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。