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第1話

オレンジの香りと海の色
    俺はコーヒーの入ったカップをテーブルに置き、目の前で楽しそうに他愛のない話をする彼女の話に適当に相槌を打つ。
    女性客とカップルの多いカフェ。正直、苦手だ。
鈴木光
ここ、この間友達と来て良かったから滝本君とも来たくて
そうなんだ
    彼女の顔から笑顔が消える。
鈴木光
ねえ、そんなに私の話つまらないの?
そんなことないよ。続けて
    彼女が深いため息を吐く。
鈴木光
滝本君さ、本当は私のこと好きじゃないよね?
え?
鈴木光
    デート誘うのはいつも私からじゃん。それに、喋っているのも私だけ。滝本君は一度だって興味持って、私のこと聞こうとしなかったよね?
    彼女の瞳から涙が溢れてくる。
    図星だ。返す言葉もない。




バシャッ




    いきなり、目の前がオレンジ色になった。どうやら、彼女が飲んでいたオレンジジュースを掛けられたらしい。
    だから、女は苦手なんだ。
鈴木光
もういい。別れて
    彼女が乱暴にコップをテーブルに置く。
わかった
    滴り落ちるオレンジジュースが目に入って沁みる。
    ふと、窓の外の通行人と目が合う。その人は、灰色のベールを被ったシスターだった。
そのシスターは、海を写したような青い瞳をしていた。俺の方を見て、少し口元に笑みを浮かべている。
鈴木光
ほら、引き留めもしないじゃない
え、ごめん
鈴木光
はぁ。謝って欲しい訳じゃないんだけど。滝本君は、イケメンだから人の心が分からないんだね
    彼女は鞄を持って店を出て行ってしまった。
顔と心は別だろ……意味が分からない
女性店員
お客様、良かったらどうぞ
    女性店員が乾いたフキンを持って来てくれる。
すみません。ありがとうございます
    有難く使わせてもらう。周りの好機の視線が痛い。
 とにかく、店を出るか。





    プルルルルッープルルルルッー
    ポケットの中の携帯端末が鳴り、画面に母と出てくる。
なに?
滝本麻里
何じゃないでしょ。明日、従姉の清香ちゃんの結婚式でしょ? 準備があるんだから早く帰って来てちょうだい
準備って、俺は制服でも良いんだから準備もないだろう?
滝本麻里
いいから、帰って来てちょうだい。私も、お父さんも結婚式出たら直ぐに出張だから他のこと手が回らないのよ
分かった、帰るから。じゃあ
    まだ、何か言いたそうだが通話を切る。
これはどうしたものか
    ブレザーとシャツにネクタイ、スラックス上から下までオレンジの匂いだ。









滝本麻里
あんたからなんか、オレンジの匂いがするけど?
気のせいだよ。それより、始まる
    ステンドグラスと十字架。大きな白いピアノ。
    参列客も揃い、老齢の神父が祭壇に立つ。タキシードに身を包んだ新郎も緊張した面持ちで新婦を待つ。
    ピアノの演奏者と灰色のベールをかぶったシスターが入って来る。
 昨日のシスターだ。あの、青い瞳に雪のように白い肌。質素なシスターの装いが、一層彼女の美しさを際立たせる。
    ピアノの音色が教会の天井に響き渡る。曲は、賛美歌429番「愛の御神よ」結婚式の定番の曲だ。
    一瞬、シスターの視線が俺の方を向いて青い瞳と目が合った。シスターが深く息を吸う。
    その瞬間、俺の中で時が止まった。
 細い首から発せられるソプラノの歌声。教会全体に響き渡る。教会が一層神秘的な空間に感じられる。
    教会の扉が開き新婦が身廊をゆっくりと歩んでくる。みんなが新婦を見つめる中、俺はシスターから目が離せなくなっていった。
綺麗だ……
    俺の口から自然と零れ落ちた。
    新婦が祭壇まで辿り着いたところで、シスターの歌が終わってしまう。
神父
汝、上杉渉は、この女 柴崎清香を妻とし~
    神父の声が教会に木霊する。
 シスターは静かに教会から出て行ってしまった。
    追わないと。義務感のような気持に駆られて椅子から、静かに立つ。
滝本麻里
ちょっと、どこに行くの?
ごめん、トイレ
    俺は、短く返しシスターを追って教会を出た。