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第5話

人を愛せない人魚
教会に住んでいる訳じゃないんだね
    海に言われて、辿り着いたのは教会にある小さな離れだった。中は、整理整頓が行き届いている。
早く、拭かないと風邪をひいてしまう。何か、拭くものは?
    海を近くの椅子に座らせる。
あそこの棚にタオルが入っているから二枚取って。貴方も拭いた方がいい
    棚の中からバスタオルを二枚取り出して、一枚を海に渡す。
ありがとう……運んでくれて
    海は頭からタオルを被る。
どういたしまして。こちらこそ、タオルありがとう
    俺も、タオルを被り髪を拭く。海水だから、少しべたつく。
安心して、もう帰るから
……今晩だけ
え?
今晩だけなら、いてもいい……
本当に?
今晩だけだから。あと、寝るならその長椅子で寝て
    海がベットの近くに置かれたソファーを指差す。
ありがとう。朝になったら直ぐに帰るよ
    俺は冷静を装った。口元が緩みそうなのをタオルで隠す。



頬に冷たくて優しい指の感触を感じた。俺は、眠気眼を必死に開ける。
んん? 海……?
    窓から朝日が差し込む。
    海が俺の頬を指先で撫でている。青い瞳と目が合う。
おはよう。海さん
    頬に触れている海の手を握る。
っ! おはよう……
    海の頬や耳が赤くなっていく。俺の手から海の手がするりと抜けていく。
なんだか、嬉しい
    俺は、ソファーから体を起こす。
目が覚めた時に誰かが隣にいてくれるのって嬉しい
……貴方も一人なの?
確かに、一人でいることの方が多いかもしれない。両親も仕事で滅多に家に帰って来ないし、特に仲の良い友人もいないから
そう。貴方も、私と同じね
    俺と海が同じ? 
    海が俺の隣に座ってくる。
海さん?
なに?
早く帰れ、って言わないの?
    海はキョトンとした顔をする。
帰りたいの?
    俺は、首を横に振る。
なら、いいでしょ? それに、貴方には話してもいいかなって
話してくれるの?
    海が小さく頷く。
私ね、人間になって一人の男の人に恋をしたんだ。私に名前をくれて人間としての生き方を教えてくれた人で、本当に好きだった
 確か、名前を聞いた時に言っていた。恋人からもらったのか。
そっか。好きな人がいたんだ……
うん。でも、死んじゃった。私の所為で自ら、命を絶ってしまったの
自殺?
うん。私ね、この足と引き換えに呪いが掛けられているの。恋をすると海の泡になる呪い
    頭の中が真っ白になって、体の中の血が一気に下がる。
呪いを解くには、相手を殺すしかない。ひどいでしょう?
俺は何も知らなかった…… 知らなかった、俺は自分の気持ちばかりで……
    俺の握り締めた拳を海が優しく握り、首を横に振る。
貴方は何も悪くない。悪いのは何も言わなかった私
でも、俺はもう君と会えない! 会ってはいけない!
    海が首を横に振る。
私が、人間になった理由は寂しかったから。人魚は長い寿命を一人で生きていく。私は、それが耐えられなかった。人間のように、誰かと一緒に生きてみたかった
    海の瞳に涙が溢れていく。
なのに、誰も愛せない。人間になれたのに、人魚の時と何も変わらない……
    海の涙が落ちていく。
    海の孤独は到底、俺には分からない。
ごめんなさい。こんな、話をしちゃって
    でも、海の寂しさは少しわかるような気がする。








俺たち、友達になれないかな?
え?
海さんは俺のこと好きじゃない。なら、友達として一緒にいることは出来ないかな?
でも……いいの? 私と一緒にいてくれるの?
海さんがいいのなら……
    なんだか、少し照れ臭い。自分から友達になろうなんて言ったことなんてなかった。
    俺は、海に右手を差しだした。ゆっくりと、俺の手を握り返してくれる。
湊がいいのなら
    やっと、海が笑ってくれた。俺も、自然と口元が緩んでくる。
    どんな関係であれ、彼女の側にいられることが今は只々嬉しい。