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第6話

あなたの見ている世界
本当に来たかったの?
ええ。一度も、来たことなかったの。でも、面白いでしょ? 人魚が水族館に来るなんて
    あれから、俺は海と友人として付き合うことになった。海は長いこと生きているようだが、知らないことが沢山あるようだ。例えば、水族館での魚の様子とか。
すごい! 私、一度にこんな沢山の人間が集まるところ初めて見た。それに、大きな建物ね
    海は目を輝かせて辺りを見回す。
今日は休日だから、人も多いね
湊、見て! あの水槽大きい! それに、あんなに沢山の魚達がいる!
    海が水槽に走って行ってしまう。
あ、ちょっと待って海さん!
     海が人の波の中に消えて行ってしまう。俺は、急いで海の後を追う。



どこ行ったんだ?
子供A
ママ、見て! あの、お姉さんの周りにお魚さんが集まって来てる!
    小さな女の子の指差す方向を俺も見る。
海さん!?
    大きな水槽の前に立つ海。その周りに、銀色に輝く魚達が集まっていた。
ふふっ。そうなの、ここも悪くないのね。安心した
    海が水槽に向かって話している。周りの客が、不思議そうに海を見つめ始めていた。
海さん
    俺は、水槽に鼻先が付きそうなぐらい近づいている海に声を掛けた。
湊。ここの魚達は案外、水族館を気に入っているみたい
言っていることが分かるの?
うん。海にいた時よりは聞こえづらいけど、分かる
    海が水槽に耳をくっ付ける。
何をしているの?
こうした方が聞こえやすいの
    周りの好奇の目が集まる。
人間の世界は決まりごとが多くて、自由が無いですって
魚がそう言っているの?
うん。海の中の様に自由にどこまでも泳ぐことは出来ないって。きっと、海が恋しいのね。可愛そう
海さんも海が恋しいの?
    海が首を横に振る。
今が楽しいから。私、この人間の世界が好きなの
    俺はそっと海の手を握った。
えっ、
    海が驚いたように俺を見つめる。
海さん、勝手にどこかに行っちゃうから。迷子になったら困るし
湊……
ほら、まだ見て回る所いっぱいあるから。行こう
    俺は、海の手を引いて歩く。水族館が少し、薄暗くて良かった。きっと、今俺の顔は赤くなっているだろうから。
なんだか、今日の湊の手は熱いのね
手汗、かいたらごめん
    海がクスクスと笑い始める。
湊って、本当に面白くて変わっているのね
    どこに、笑うところがあったのかは分からなかったが海が本当に楽しそうで良かった。
笑ってないで、行くよ。海さんの所為で、あそこの魚達が水槽を割る前に
    水槽に魚が集まって、口をパクパクと開けてこちらを見ている。
あ、ごめんなさい! みんな、また来るね!
    海が水槽に向かって手を振る。
行きましょう、湊!
    無邪気に俺の手を引く海。本当に、可愛すぎる……








とても、楽しかったわ。湊、連れて来てくれてありがとう
    閉館時間まで、海は一つ一つの水槽の魚達と話して回った。
   日も暮れて、俺は海を家まで送る。
どういたしまして。俺も、楽しかった。まさか、魚の生の声を聞けるとは思わなかったし、貴重な体験したよ
    海がホッと、息を吐いた。
良かった……私だけ楽しんじゃったのかと思った
まさか。海さんといて楽しくないことなんてないよ
    素直にそう思う。海への恋情を抑えるのは少し、苦しいけど。
私といることが楽しい?
うん。また、海さんと水族館に行きたい
私と……?
なんか、今日は海さんの見ていた世界を知れたみたいで嬉しかったし
    海の足が止まった。
海さん?
    少し、海の耳が赤くなっている。
どうしたの?
な、何でもない!
    海が家に走って行く。
湊……明日は、夜に来て
うん。いいけど、どうして?
神父様から、子供会で余った花火を貰ったから。湊とやりたい……
分かった。じゃあ、明日ね
うん。明日……
    海が扉を開けて部屋に入って行った。
    やっぱり、好きだ。