-狭霧 視点-
狼たちを討伐したあと、ボス狼も黒い粒子となって消え、早速辺りを調べていた。
狼を倒した場所では、この世界の通貨らしきものや何かの素材が落ちており、全て手にすると勝手に証に吸収されて持ち物に追加された。
四次元ポケット的な効果があるのだろうか?
ステータス画面を開いて持ち物欄を見てみれば、吸収された素材や硬貨などがしっかりと並べられている。
出し入れも自由にできるみたい。
ほんま、便利やなぁ。
そう言われ、クロさんの目線を追って左下を見ると、なんかのゲージが見えた。
しっかり見てみれば、緑のゲージがHP、黄色のゲージがスタミナと表記されている。
上限とされる白い枠から、緑だけは枠の3分の2程度しか無かった。
これはHPが削れてる証だろう。
早急に回復しなきゃ…
スキルのヒールでゲージを枠分埋めたあと、ばっと目の前にいるクロさんに目をやる。
クロさんから見て左下を見れば、同じようなゲージが表示されていたが…
クロさんのゲージを見ると、私にはない、青いゲージが存在した。
そうだ!すっかり忘れてたけど、私、カミサマにMP減少無しでってお願いしたんだった。
本当にMP減少がないなんて…
というか、MPゲージすら出ないんだな。
カミサマのことは覚えてても、願いの内容は覚えていないみたい。
私はしっかり覚えてるけど、なんでクロさんは覚えてないのか…
何か違いがあるのか?
まあ…いま気にする事でもないか。
まず一つ、この森を抜ける。
これはなんにせよ必要なことだろう。
まさか、異世界がこんな森だけなはずないし。
二つ目、森を探索する。
抜けられなかったら、とにかく探索していくしかないだろう。
あまり考えたくないけど、そこは流れだ。
流れ作業と思えば大丈夫!
多分…
三つ目、蝶々を追う。
今は見てないけど、現れたら追う。
それでクロさんを発見したんだから、追えばまた誰かと合流出来るかもしれない。
ギャンブルなようで、今一番あてになることだ。
そういえば、狼の方へ行った蝶々はどこへ行ったんだろう。
クロさんの時は、しっかりその場にいた。
でも、狼の時は狼のところにいたわけじゃない。
もしかしたら、蝶々は狼じゃなくて、別のところを導こうとしてた…?
だとしたら、この先にまだ何かあるのかな。
なんとも軽い返しだが、判断を仰いでも仕方ないところもある。
ここは迷わず、先を進んでみようじゃないか。
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森の中を進んでから数十分。
未だ、なにか良いものは見つからない。
森から抜けられる感じもしないし、どうしようか…
他の方法を考え歩みを進めていると、ピキッ!っと小枝を踏んだ音が聞こえた。
それも、少し離れたところから。
瞬時に武器を構え、恐る恐る音の鳴った方へ向かう。
すると少し前を歩いていたクロさんが、急にバックステップを踏んで後退してった。
つまりはクロさんがなんらかの、ピンチ…危機を感じて回避した、ってことだろう。
それって、クロさんの進んだ場所に何かあるってことだよね?
しかも緊急回避するほどの。
回避した場所を避けて通ろうとしたところ、目の前から不思議な容姿をした少女が現れた。
それも聞いた事のある、カワボで。
しおんちゃんらしき人物は、パーカーのような服を身につけており、驚いているのか、首をかしげている。
確かに、声はしおんちゃんのはずだった。
でも、なんか様子がおかしい?
今世紀、最大のショックかもしれん。
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かくかくしかじか…
しおんちゃんらしき人物に、あれこれ説明してみたが、どれもピンときてないらしく、いい返事がもらえない。
まさかの記憶喪失?
いやでも、最初「その声…」って言ってた。
少なくとも、この声がよく聞いた声だということは分かってるはずだ。
しっかし、どう思い出させようか…
重症だ。
なぜこんなにも記憶がないんだ?
もしかして、異世界に転移する時、ある程度記憶が飛ぶ仕組みなのか?
クロさんも少し記憶が曖昧みたいだし、有り得なくはない。
でも、私は全くもって記憶障害はない。
こんだけの差があって、そんな仕組みあるか?
うーん、なんとかして記憶を戻させたいけど…
突然、しおんちゃんが声を上げる。
来てるって…なにが?
まさか、魔物とか?
見ればしおんちゃんは武装準備が出来ていて、よからぬ野郎が来てることは理解した。
同じく自分も武器を構え、周りを警戒する。
クロさんも同じように、周りを警戒しているようだ。
言われた通り、しおんちゃんの後を着いていくと、そこには体をビクビクと痙攣させたイノシシ型の魔物が倒れていた。
これに引っかかったってしおんちゃんは言ったのか?
だとしたら、これを仕掛けたのもしおんちゃん…
ああそうか!
クロさんが緊急回避を発動させたのは、しおんちゃんの罠を踏みそうになったから。
それじゃあ、しおんちゃんは罠を使える職業ってことか。
そう言って、しおんちゃんはステッキを取り出すと、すぐさまサンダー!と叫んでイノシシを感電死させた。
なんというか…残酷だよね。
ん?いやまてよ。
慣れてるってことは、私たちより前に異世界に来てたのか?
もしかして、それが原因で記憶無くなってたりする?
それは考えすぎかな…
けど、回収するとかスキル使えたりするのって、ステータス画面を一度は使ってるってことだ。
イコールはカミサマと会話してる。
と、思うんだけど。
この猫、私の想像の範囲を超えてきやがる…
今まで、突っ込まないようにしていた。
出会った時から分かっていた。
それでも、夢だとガン無視していた。
しかし…
どうやら夢ではないらしい。
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つづく…
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。