-狭霧 視点-
あれから何時間、森をさまよっただろうか。
辺りはもう暗くなっていた。
なんだかんだで着いてきたしおんちゃんは、夜でも視界良好らしい。
猫は夜行性だからね、その能力が受け継がれてるのかな。
聞いてみれば、しおんちゃんは猫と人間のハーフ…獣人らしく、本人は言われるまで気づかなかったとか。
普通、耳とかしっぽ生えてたら気付きそうなんだが…
まあ、異世界に来たらそんな余裕もないか。
あまり暗いと足場が不安定で、いつ襲われるか分からない。
そこで、私はボス狼にした時と似た、閃光をボール型に圧縮された即席ライトを作り上げる。
ボス狼の時と少し違うのは、フラッシュバンの効果ではなく、ライトの効果を持ってることだ。
こうやって、少しの工夫で魔法が色んな事に使えるのは、新しい感覚があって楽しい。
テンプレートな魔法の使い方は面白くないしね。
思えば、クロさんの使ったスキルは影移動と、パッシブかなんかの緊急回避だけだ。
ほぼほぼ弓だけでサクッとやってたから、必要無かったんだろうけど。
他にどんなスキルあるか気になるな…
てっきり、罠を使ってたからトラッパーかと思ってたけど、魔法関連の職だったのか。
そういや、イノシシとどめ刺した時も、雷の魔法使ってたな…
まあ、しおんちゃんらしい技構成だ。
罠と魔法って、なんとなくしおんちゃん好きそうだし。
というか、とあるゲームじゃ、しおんちゃん楽しそうに地雷仕掛けまくってたし。
他にも本人らしい技覚えてそー…
クロさんの指さした方向を見ると、何があったのか、数本ほど木々が倒れていた。
本音を言えば、あまりこういう森で寝泊まりしたくはない。
安全性が皆無だからだ。
テントとか、そーゆーのがあるなら別だけど…
今はそんなこと言ってられない。
クロさんの話はもっともだ。
木という障害物の多い場所で休むより、少しひらけてて安全確認しやすい方が割と対応できる。
ここは腹をくくって、この場所で休むとするか…
ライトである閃光の玉をそこら辺に設置し、よっこらしょと、倒れた木の上に腰掛ける。
二人も続いて、そこら辺の倒れた木に座っていく。
木が丸くて椅子にしては座り心地悪いけど、さほど気にすることでもない。
座高的には問題ないし、木を背に寝るのも案外悪くなさそう。
いい休憩スポットかもしれん。
しばらくして、疲れてしまったのか、クロさんとしおんちゃんの目がだんだん細くなっていき、いつの間にか二人は寝てしまっていた。
一方の私はというと、あまり寝れる気がしなかった。
人前で寝るのが苦手というのもあるが、座っているとあまり眠くならないのだ。
それに、私は寝落ち経験がほとんどない。
寝ない気になれば、そのままオールだってできる。
頭痛くなるからしないんだけどね。
にしても、二人にかけてやる布がないな。
そのまま風邪ひかないといいけど…
この異世界でも、そういうことがあるのかは知らないが、なんにも包まず寝るのは寒いだろう。
せめて上着でもかけようかと思ったが、私の着ていた服を布団がわりにさせるというのも気が引ける。
第一、しおんちゃん潔癖だし。
結論、二人掛けてやるもんはない。
しゃーねー。
まだ陽の昇らない夜空を見上げ、そう呟く。
内心、不安だらけだ。
この先、私はどうするべきなのか。
今後、強い魔物に会った時、無事に生きられるか…
他にも挙げたらキリがないほどの不安。
しおんちゃんの記憶も、どこまで失ったか分からないけど、取り戻せたらなと思う。
普段と変わらない返答をしてくれるが、まだ少しよそよそしい。
一応、異世界でもリアルの私たちと話しているのに変わらないから、それで緊張してる説もあるが…
話しやすくなるのは、私にとっての必要事項。
コミュニケーションのとり方迷うもん。
考えすぎて脳が疲労し始めてきた頃、目の前にキラキラと紫色の粉が降って来た。
紫色の粉の正体は、私の前によく現れる蝶々のりんぷんだった。
蝶々は私の目の前で、なにか伝えたそうにしている。
そう言って、蝶々の前に指を差し出すと、蝶々はその指先にとまり、瞬く間にポンと消えてしまった。
ぼーっと名残惜しく舞うりんぷんを眺め、ふと蝶々のとまっていた指先を見る。
しかし指先には粉一つ着いておらず、まるで幻でも見ていたかのような不思議な感覚に襲われる。
…あの蝶々は、幻だったのだろうか?
でも、確かに見た。
この目で。
しっかりと記憶している。
それ、なのに。
急に視界がグラグラと歪み、体が自然とよろめく。
頭痛や耳鳴りも酷く、嗚咽しそうになるのも束の間、ついにはバタリと地面に倒れ込む。
初めて味わう苦痛に困惑し、やがて私は意識を手放した。
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つづく…
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!