-狭霧 視点-
蝶々の行った先を進んで行く私とクロさん。
おそらく、行った先は狼たちの集う場所。
間違いなく戦闘せねばならん。
木々をかき分け、やっと森を抜けたと思ったら…
案の定、かき分けた先は狼のたむろう場所だった。
後ろにいたクロさんも察し、草木に姿を隠して狼たちの様子を伺う。
確かに蝶々はここに向かった。
しかし、わざわざこんな危険な場所に導いてどうするのか。
要するにキーアイテムみたいなのがあるんだろうけど…
うっ、こいつ、脳内に直接…!?
ってわけじゃないみたい。
実際脳に声を送ってるんだろうけど、細かいことはこの際無し!
にしても、カミサマは一体なんのために話しかけてきたんだ?
おぉ、怖い怖い…
言われた通り、私は証の着いた手の甲に指を置き、力が欲しい…そう求めた。
すると証からホログラム的なものが飛び出、目の前に何かの情報が映し出される。
これは…ステータス?
カミサマって、本当になんでも出来るんやな…
カミサマのいうステータス画面からは、自分の職業、能力値、スキル、持ち物など、あらゆる状態を確認できるようになっていた。
それを順番に見ていく。
まず、職業は言われた通り、カーディナルウィッチ。
白魔法術士らしく、回復はもちろん、範囲攻撃魔法も使えるみたいだ。
能力値は…比較する対象がいないから分からないが、魔法力が他の数字より高めってことは分かる。
耐久力は無さそうだ。
スキルの欄を見てみると、初期的な回復魔法や範囲魔法が載ってあった。
最初だからか、あまり威力はないみたいだけど、カミサマに願ったMP減少無しが働いてるのだとしたら、まず問題はないだろう。
ざっと見ていった中で、私は一つ疑問を持った。
そうカミサマが言うと、ピロンと音がしてなんとなく通信が切れたのだと察する。
これが異世界の携帯電話というやつか…
そんなことはさておき、問題はここから。
殺る準備が整ったその時、手元に武器らしき杖が現れた。
クロさんの方に目をやると、その手にはしっかりと弓が握られていた。
しかも背中にちゃんと矢筒がある。
どうやら、戦闘意思がある時には、勝手に武器が手元に現れる仕組みのようだ。
ハイテクぅ〜!
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攻撃しに来た狼を見事に撃ち抜いていくクロさん。
私もそれなりに応戦しているが、殺傷力はクロさんの方が上。
というわけで、私はクロさんの攻撃のアシストをしている。
不可思議にも、クロさんの撃った矢で死んだ狼は黒い粒子となって消滅している。
おそらく、私が狼を殺しても同じ現象が起きるだろう。
そしてもう一つ気になったのが、クロさんの矢がいくら撃っても無くならないことだ。
どうやら、矢は撃っても無限に湧く仕様みたい。
クロさんが一匹ずつ駆除していく隙をつくように、殺られた狼の背後からもう一匹突進してきた。
突進してきた狼目掛け、目くらましの魔法を放つ。
狼の動きが止まったところで、弓矢が狼の頭を射抜く。
さすがのエイム力。
この世界でもFPSで鍛えられたエイム力は健在のようだ。
私たちと少し距離を置いたところで、静観していた図体のデカくて牙がギラついている狼。
あれはおそらく、狼たちのリーダー。
私たちにとってのボスだ。
様子を伺っているようだが、その距離ならクロさんの弓矢射程圏内だろう。
さっきみたいに、上手く目くらましで…
クロさんが照準を合わせてる時に、物凄い速さでボス狼が私たちの間を切り抜けていった。
と、言うより、爪で切り裂こうとして避けられた…と言うべきか。
なんにせよ、あの速さは尋常ではない。
さすがのクロさんでも当てるのは至難の業。
依然として狼は身構えている。
攻撃しようとした隙を狙っているのだろうか。
狼も群れなすほど賢い生き物だ。
そういう知恵は働くのだろう。
知恵には知恵。
どう打開しようか…
私のスキルで何とか出来そうにはない。
じゃあクロさんのスキル…あ。
覚悟を決めたクロさんは、瞬時に木の影に溶け込んだ。
しかも私じゃ視認できないなこれ。
影となって移動してるんじゃなくて、影にワープできるスキルなんじゃないか?
はー…
死なない程度に、ね。
あのボス狼もクロさんを視認出来なくなったらしく、ボス狼の目線は私に向く。
次の瞬間、急激にボス狼の殺気が増し、飛びかかろうとこちらに向かって来た。
それを間一髪、体を回転させて移動することで回避した。
これ何回も食らったらさすがにバテる!
むり!バカじゃないの!?
ああでも引き付けんと…
クロさんが攻撃しやすいようにするためには、何が必要?
背後をとった時、気付かれないようにするには…
影にワープするんだったら?
ボス狼の注目を私以外に向けないためには?
そのためには…
私があることをした時、ボス狼も勘づいてか、すぐさま走ってきてその鋭利な爪を私へ向けた。
が…
私が投げた魔法フラッシュの凝縮されたボールがボス狼の爪に当たり、見事に炸裂。
私でも目が眩むような閃光がボス狼をひるませる。
そして、閃光が消えると同時に、私の横スレスレに豪速の弓矢が通り抜けていく。
気が付けば、目の前には頭にどデカい穴のあいたボス狼が倒れ込んでおり、おそらくは弓を撃った後であろうクロさんが凛と立っていた。
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つづく…
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!