私は、魔法が使えない
だったら……どうするか
私がこの世界で唯一使えるもの
動物言語学
これで……グリムを止めないといけない
怪我をして動かない足を引き摺りながら立ち上がる
そして、自分より何倍もの背丈があるグリムに歩み寄る
その間もずっと、言葉を発し続けた
そのお陰か、誰よりも安全に近づくことが出来た
互いの間合いに入った瞬間
突然グリムが唸り声をあげる
グリムの鼻先にそっと触れる
少し湿っていて、暖かい
喉の奥がゴロゴロと鳴っている
怯えからの威嚇だと、すぐに分かった
それと同時に思い出した
これ……2回目だ
その時だった
ガシャーン!!
静まり返った空間に、大きな音が響き渡る
ボロボロになったシャンデリアが落下したのだ
大きな音に驚いたグリムが……
私の首に噛み付いたのだ
首だけじゃない
腰から首の側面にかけて、大きく噛まれた
血が、腕を伝って落ちる
痛くて、立っていられない
"グリム……"
そう、口にするのがやっとで……
その後すぐに、全身の力が抜けた
目の前が、暗くなって閉じていく
……そうだ……思い出した
あの話の続き
糸車で指を刺したお姫様は眠ってしまう
確か小さい頃の記憶では、王子様のキスで目を覚ます
だけど確か……
グリム童話では、100年の眠りにつく呪いにかけられてしまうのだ
100年間、目を覚ますことは無い
それは昔の人にとっては、永遠と等しかった
私は傷口の痛みと熱さを感じながら、その睡魔に抗えなかった────
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!