時は約2週間前に遡る
とある日の帰り道でのこと
山口が月島の顔を覗くようにして訊く
それ以上は、何も言わなかった
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私は、恐る恐る第三体育館へと入る
ネットはもともと張ってあったみたいで、けーにいが器具庫からボールを取り出していた
名前を呼ばれ、少しドキッとした
それを誤魔化すかのように、私はそそくさとボールかごの隣に立つ
久しぶりの緊張感と懐かしいボールの感覚に浸りながら、私はけーにいにボールを投げた
けーにいはそれをアンダーで返して、私はボールの下に潜る
けーにいの助走にあわせてトスを上げたとき、視界が滲んだ
スパァァン!!
筋の通った音を合図に、涙は止めどなく溢れだした
私は、そのまま膝を体育館床につける
立っていられないくらいに胸が苦しいのだ
けーにいは、私の隣に座って背中をさすってくれた
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静かな空気を断ち切るかのように、私は大きく声を出す
心配そうに訊いてくるけーにいよそに、
私は勝手に練習を始めた
そこから約1時間の間、けーにいにトスを上げ続けたということは言うまでもない
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。