第7話

7.そばにいる安心感
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2019/10/12 09:09
ニーナ
ニーナ
さ、イザークは休んでて

家に帰り着いたニーナは、先程からぼんやりとしているイザークを、早めに休ませようとした。


しかしながら、イザークはローブを脱ぐと、いやいやをするように首を振る。
イザーク
イザーク
テオドールとの約束だから、ニーナを手伝う
ニーナ
ニーナ
えっ、今日すぐにじゃなくてもいいよ?
ヴォルフだって、休養をとるように言っていたし
イザーク
イザーク
大丈夫、動ける

ニーナの心配をよそに、イザークはかたくなだ。


テオドールがいない間、いつもひとりだったニーナは、その申し出が嬉しかった。
ニーナ
ニーナ
じゃあ、一緒にやりましょう! あ、でも、辛くなったらすぐに言ってね?
イザーク
イザーク
分かった。
何をすればいい?
ニーナ
ニーナ
まずは、二階に干している洗濯物を畳んでくれる?
男物だけでいいから

イザークは困ったように瞬きした。


ニーナが首を傾げると、彼はゆっくり口を開く。
イザーク
イザーク
……どう、畳めばいいのかな
ニーナ
ニーナ
ああ、そういうこと。
じゃあ、教えるから一緒にきて

ふたりは二階のベランダに行き、干してある洗濯物を取り込んだ。


ニーナは自分の洋服類と布・手拭い・シーツを、イザークには男物の洋服類をそれぞれ畳む。
ニーナ
ニーナ
ここを、こうすると……ほら、形が整うよ
イザーク
イザーク
なるほど

おぼつかない手つきながら、イザークは真剣に取り組んでいる。


その後も、ふたりは一緒に水汲みをし、夕食の準備を始めた。


イザークは何もかもが初めてで、ナイフの扱い方すら知らなかったので、今はニーナが隣に立って丁寧に教えている。
イザーク
イザーク
ニーナは毎日、これをひとりでやってるの?
ニーナ
ニーナ
うん。
テオが外で頑張ってくれてるから、私はできるだけ家のことをしているの
イザーク
イザーク
そうか。
家のことも結構大変なのに……こんなことが毎日できるなんて、君はすごいな

ニーナの働きぶりを見たからか、イザークは感心したように呟いた。


家事を直接褒めてもらえる機会は、今となってはあまりない。


イザークの素直な評価が、ニーナは心底嬉しかった。
ニーナ
ニーナ
私は、イザークがこうして隣にいてくれて、嬉しいし楽しい
イザーク
イザーク
え?
ニーナ
ニーナ
いつも、ひとりだったから。
それが普通だったけど、誰かがそばにいてくれると、すごく安心する
イザーク
イザーク
……そう。
僕も初めての体験ばかりでびっくりしているけど、ニーナがいてくれたから、助かってる

ニーナが笑うと、イザークもつられて笑った。
ニーナ
ニーナ
(笑顔が出てきてる……これなら、いつか記憶も戻るかな?)

市場から帰ってくるまでの間、イザークの様子がおかしかったのが気がかりだったが、今は問題なさそうだ。


そう思って、ニーナは一安心した。
ニーナ
ニーナ
あ、待って。
ニンジンはこう持って、ナイフを滑らせるようにして皮をむくの
イザーク
イザーク
う……難しいな

教えることに集中しているニーナは、自然とイザークへと体を近づけていった。


そして遂に、肩と肩が触れ合う。
イザーク
イザーク
に、ニーナ。
ちょっと、近い……
ニーナ
ニーナ
ん?

ニーナは何とも思っていないし平気だったのだが、イザークがのけぞるようにして離れてしまった。


照れくさいのか、ニンジンを持った手で顔を隠している。


【第8話につづく】

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