家に帰り着いたニーナは、先程からぼんやりとしているイザークを、早めに休ませようとした。
しかしながら、イザークはローブを脱ぐと、いやいやをするように首を振る。
ニーナの心配をよそに、イザークは頑なだ。
テオドールがいない間、いつもひとりだったニーナは、その申し出が嬉しかった。
イザークは困ったように瞬きした。
ニーナが首を傾げると、彼はゆっくり口を開く。
ふたりは二階のベランダに行き、干してある洗濯物を取り込んだ。
ニーナは自分の洋服類と布・手拭い・シーツを、イザークには男物の洋服類をそれぞれ畳む。
おぼつかない手つきながら、イザークは真剣に取り組んでいる。
その後も、ふたりは一緒に水汲みをし、夕食の準備を始めた。
イザークは何もかもが初めてで、ナイフの扱い方すら知らなかったので、今はニーナが隣に立って丁寧に教えている。
ニーナの働きぶりを見たからか、イザークは感心したように呟いた。
家事を直接褒めてもらえる機会は、今となってはあまりない。
イザークの素直な評価が、ニーナは心底嬉しかった。
ニーナが笑うと、イザークもつられて笑った。
市場から帰ってくるまでの間、イザークの様子がおかしかったのが気がかりだったが、今は問題なさそうだ。
そう思って、ニーナは一安心した。
教えることに集中しているニーナは、自然とイザークへと体を近づけていった。
そして遂に、肩と肩が触れ合う。
ニーナは何とも思っていないし平気だったのだが、イザークがのけぞるようにして離れてしまった。
照れくさいのか、ニンジンを持った手で顔を隠している。
【第8話につづく】
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。