第19話

19.気付いてほしくなかった思い
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2020/01/04 09:09
ニーナ
ニーナ
ヴォルフとの婚約と結婚、とりやめたいの
ヴォルフガング
ヴォルフガング
……え、話ってそれ?
ニーナ
ニーナ
うん

ニーナが腹を決めて伝えると、ヴォルフガングは目を見開いたまま固まった。


沈黙が怖いとニーナは思いながらも、彼の答えを待つ。


根掘り葉掘り理由を聞かれるか、認めないと一蹴いっしゅうされるか。


少しの時間が経って、ヴォルフガングは自嘲じちょう気味に笑い、両手で一度顔を覆った。


その後、彼は目を閉じたまま天を仰ぎ、大きく溜め息をこぼした。
ヴォルフガング
ヴォルフガング
もしかして……気付いたのか?

ヴォルフガングは静かに言った。
ニーナ
ニーナ
何、に?
ヴォルフガング
ヴォルフガング
自分の胸に手を当てて聞いてみろ。
思い当たる節があるだろう?

ニーナが意味を聞き返すと、ヴォルフガングが切なげに目を細める。


言われたとおり、ニーナは自分の行動をかえりみた。
ヴォルフガング
ヴォルフガング
一緒に飛行船に乗った日。
ニーナの、イザークへの視線とか態度は……そういうものだったぞ
ニーナ
ニーナ
そういうものって……?
ヴォルフガング
ヴォルフガング
ああ、もう。
好きなやつに接するときのものってことだ。
だから、俺は確認しただろう?
あいつが好きなのかって
ニーナ
ニーナ
……!

ヴォルフガングに指摘され、あの時感じていたもやもやが、アレクシスへの恋愛感情の表れだったのだと、ニーナは悟った。


だから、ヴォルフガングは、ニーナが当時のイザークに対して好意があるのかどうか、確認をしたのだ。


あの日はまだ、アレクシスと出会ってほんのわずかな時間しか経っていなかったにも関わらず、ニーナも無自覚のうちに、好意が芽生えていたということになる。


そんな簡単に、人間が恋に落ちるものなのか。


ニーナはぽかんと口を開けた。
ヴォルフガング
ヴォルフガング
こんな近くで、あいつなんかよりもずっとニーナと一緒にいたはずの俺が、なんで……選ばれないんだろうな。
世の中は不思議だ
ニーナ
ニーナ
……ごめんなさい。
えっと、ヴォルフは私と結婚したかったの?
ヴォルフガング
ヴォルフガング
……は!? まさか、伝わってない……?

ニーナが婚約解消を言い出した時よりも、ヴォルフガングは驚いた声を出した。
ニーナ
ニーナ
え? 親同士が言うから、仕方なく婚約したんじゃないの?
ヴォルフガング
ヴォルフガング
ばっ……! それだけで俺が『はい、結婚します』って言うか!? 俺も望んでいたからに決まってるだろう!
ニーナ
ニーナ
そうだったの!?
ヴォルフガングは常にぶっきらぼうで、素直に思いを口にしないからか、ニーナはとんでもない勘違いをしていた。


彼は、ちゃんとニーナを思ってくれていたのだ。

ニーナ
ニーナ
(知らなかった……)

いかに自分がヴォルフガングに酷いことをしたのか、ニーナは反省する。
ヴォルフガング
ヴォルフガング
テオドールにとられるなら、まだ納得いったんだけどな……

苦笑を浮かべるヴォルフガングに、ニーナは罪悪感を覚えた。


そのテオドールも、ニーナの気持ちを考えて身を引いていたのだ。
ニーナ
ニーナ
(でも、やっと分かった。私は、やっぱり……アレクシスと一緒にいたいんだ!)

自分の気持ちと向き合えたことで、ニーナははっきりとそう思える。


それがニーナのわがままだと分かっているけれど、この思いだけは譲れないと強く願った。


【最終話につづく】

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