翌朝、寝不足のままニーナが一階へと降りてくると、既にイザークは起きていた。
少し回復したのか、自力で歩き、ニーナのところまでやってくる。
顔色も、昨夜よりはよくなっているようだ。
ニーナが安堵していると、テオドールもタイミングよく起きてきた。
不本意そうにしながらも、テオドールはやはり面倒見がよかった。
ニーナが食事の支度をする一方で、てきぱきとイザークの世話をしている。
そんな様子を見ながら、ニーナはひとり微笑んだ。
三人で朝食を囲みながら、そんな話をする。
いつもはニーナひとりきりか、テオドールとふたりか、そのどちらかだ。
イザークは食欲があるようで、出された分は残さずしっかり食べてくれた。
これからしばらくは家の中が賑やかになりそうで、ニーナはわくわくした。
***
イザークが誰かから襲われた可能性を考えると、美しく目立つ顔を隠しておいたほうがいいと、ニーナは判断した。
厄介な問題に巻き込まれているか、はたまた何者かから追われているか、予想に過ぎないが用心するに越したことはない。
イザークにフード付きのローブを着せてあげると、ニーナの気遣いを察したイザークは、嬉しそうにはにかんだ。
無表情かと思いきや、ふと見せたイザークの意外な一面に、ニーナはドキリとした。
午後になってすぐ、ふたりは家の外に出た。
病院に向かうため、石畳の道を並んで歩いていると、イザークは物珍しそうに周囲をキョロキョロと観察する。
イザークは首を横に振った。
昨夜、偶然ニーナたちの元へ辿り着いた以前のことは、意識が朦朧としていたこともあり、何も覚えていないと言う。
ニーナは自然とイザークの手を引いた。
幼い頃はよく、テオドールがそうしてくれたので、きっと安心できるだろうと思ったのだ。
フードを被っているとはいえ、イザークの美しさはやはり目立つ。
行き交う人々――主に女性たちが次々と振り返った。
周囲から観察されて不安がるイザークの手を、ニーナがぎゅっと握って励まし、笑いかけた。
イザークは頬を赤らめながら頷く。
そう問いかけられ、ニーナはきょとんとして立ち止まった。
何度目かになる礼を呟いて、イザークは穏やかな表情を浮かべる。
イザークが心を開き始めてくれた気がして、ニーナは嬉しさを噛みしめた。
【第6話につづく】
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!