第5話

5.新しい生活の始まり
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2019/09/28 09:09

翌朝、寝不足のままニーナが一階へと降りてくると、既にイザークは起きていた。
ニーナ
ニーナ
イザークさん! 体は、大丈夫そうですか?
イザーク
イザーク
……ああ、うん

少し回復したのか、自力で歩き、ニーナのところまでやってくる。


顔色も、昨夜よりはよくなっているようだ。


ニーナが安堵あんどしていると、テオドールもタイミングよく起きてきた。
テオドール
テオドール
お、少しは回復したみたいだな
イザーク
イザーク
えっと……ニーナ、テオドール。
本当にありがとう
ニーナ
ニーナ
よかった。
すぐに朝食の準備しますね
テオドール
テオドール
とりあえず、風呂に入って包帯を変えてきたらいい。
服は俺のを貸してあげるから

不本意そうにしながらも、テオドールはやはり面倒見がよかった。


ニーナが食事の支度をする一方で、てきぱきとイザークの世話をしている。


そんな様子を見ながら、ニーナはひとり微笑んだ。
テオドール
テオドール
働かざるもの食うべからず、だからな。
君もしばらく休んで、体に問題がなければ、少しずつでも働くんだ
イザーク
イザーク
分かった、約束する
ニーナ
ニーナ
でも、今日はヴォルフの病院に行って、ちゃんと検査しないと
テオドール
テオドール
そうだったな。
俺はまた仕事だから、ニーナ、イザークを頼めるか?
ニーナ
ニーナ
うん。
イザークさんもそれでいい?
イザーク
イザーク
大丈夫、案内をよろしく。
あと……ニーナも、僕に敬語は使わなくていいよ
ニーナ
ニーナ
分かった。
じゃあ、イザークって呼ぶね

三人で朝食を囲みながら、そんな話をする。
ニーナ
ニーナ
(なんか……家族で暮らしてた頃を思い出すな)

いつもはニーナひとりきりか、テオドールとふたりか、そのどちらかだ。


イザークは食欲があるようで、出された分は残さずしっかり食べてくれた。


これからしばらくは家の中がにぎやかになりそうで、ニーナはわくわくした。



***


ニーナ
ニーナ
イザークはこれを被って
イザーク
イザーク
なに、これ……?
ニーナ
ニーナ
着たことない? ローブだよ

イザークが誰かから襲われた可能性を考えると、美しく目立つ顔を隠しておいたほうがいいと、ニーナは判断した。


厄介やっかいな問題に巻き込まれているか、はたまた何者かから追われているか、予想に過ぎないが用心するに越したことはない。


イザークにフード付きのローブを着せてあげると、ニーナの気遣いを察したイザークは、嬉しそうにはにかんだ。
イザーク
イザーク
ありがとう、ニーナ
ニーナ
ニーナ
……!
こ、これくらい、たいしたことないよ。
テオのだから、大きさは大丈夫かな?
イザーク
イザーク
うん、ぴったり

無表情かと思いきや、ふと見せたイザークの意外な一面に、ニーナはドキリとした。


午後になってすぐ、ふたりは家の外に出た。


病院に向かうため、石畳の道を並んで歩いていると、イザークは物珍しそうに周囲をキョロキョロと観察する。
ニーナ
ニーナ
こっちの道を行くと市場、こっちが下町の中心部に繋がるよ。
今から行く病院はあっち
イザーク
イザーク
……そうなんだ
ニーナ
ニーナ
この景色、知ってる? 何か思い出せそうだったら教えて?

イザークは首を横に振った。


昨夜、偶然ニーナたちの元へ辿り着いた以前のことは、意識が朦朧もうろうとしていたこともあり、何も覚えていないと言う。
ニーナ
ニーナ
そっか。
まあ、すぐには分からないよね。
焦らずにいこう
イザーク
イザーク
うん

ニーナは自然とイザークの手を引いた。


幼い頃はよく、テオドールがそうしてくれたので、きっと安心できるだろうと思ったのだ。
町の娘
町の娘
ねえ、今の男の人、見た?
町の娘
町の娘
うん、すごく綺麗な顔だった……!

フードを被っているとはいえ、イザークの美しさはやはり目立つ。


行き交う人々――主に女性たちが次々と振り返った。
イザーク
イザーク
な、なんか……見られてる?
ニーナ
ニーナ
大丈夫。
あまり見ない人だから、珍しがってるだけだよ。
何もしてこないから、安心して
イザーク
イザーク
……うん

周囲から観察されて不安がるイザークの手を、ニーナがぎゅっと握って励まし、笑いかけた。


イザークは頬を赤らめながら頷く。
ニーナ
ニーナ
やっぱり、イザークは元からこの辺りに住んでたわけじゃないみたいだね
イザーク
イザーク
それよりも、君はどうして、僕に親切にしてくれるの?

そう問いかけられ、ニーナはきょとんとして立ち止まった。
ニーナ
ニーナ
うーん……。
誰かが困ってるなら、助けてあげたいって思うから。
テオが昔、私にそうしてくれたからかも
イザーク
イザーク
そうか。
だから、ふたりとも優しいんだね……

何度目かになる礼を呟いて、イザークは穏やかな表情を浮かべる。


イザークが心を開き始めてくれた気がして、ニーナは嬉しさを噛みしめた。


【第6話につづく】

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