第18話

18.十年来の思い
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2019/12/28 09:09

テオドールのあまりのいきどおりように、ニーナは驚いて後ずさりした。
テオドール
テオドール
ああ……驚かせたな。
悪い
ニーナ
ニーナ
……ううん。
でも、そこまで怒らなくても
テオドール
テオドール
いや、違うんだ。
ヴォルフガングとの結婚は……ふたりの両親が望んだことだから。
俺は見守るのが一番だと思っていた。
自分の気持ちは諦めるのが、当然だとばかり……
ニーナ
ニーナ
どういうこと?

テオドールは、ヴォルフガングとニーナの結婚のことも、ニーナの気持ちを尊重すると言ってくれたのではなかったか。


彼が何を言っているのか、ニーナにもよく分からない。
テオドール
テオドール
ニーナを六歳で引き取って、一緒に暮らしてさ。
ニーナが成長するにつれて、愛情が増してきていたんだ
ニーナ
ニーナ
……それは、『家族として』ではなくて?
テオドール
テオドール
ああ。
ちゃんと、異性として、だ

ニーナは息を呑んだ。


テオドールの十年来の思いの吐露とろを、どう受け止めたらいいのか。
テオドール
テオドール
別に、妻になってほしいとまでは思っていないさ。
もしも、ニーナがヴォルフガングとの結婚をやめるって言い出したら、その時は……この先もずっと、俺と暮らせばいいと考えていた
ニーナ
ニーナ
……!
テオドール
テオドール
おい、大丈夫か?

義理の兄として、家族としてテオドールを慕っていたからこそ、ニーナはびっくりして足をもつらせ、こけてしまった。


床に尻もちをつくと、テオドールがすかさず抱え上げ、椅子に座らせてくれる。


こうして、いつでも助けてくれた義兄が、自分を思っていたことに気付かないなんて、なんて間抜けだろうか。


だが次第に、気持ちを押し殺してまで、ヴォルフガングの花嫁として送り出そうと見守ってくれていたテオドールに、ニーナは複雑な感情を抱いた。


申し訳ないのと同時に、ニーナの気持ちを最優先してくれることへの感謝の気持ちがわいてきて、ニーナは涙を流す。
テオドール
テオドール
ああ、おいおい……泣かなくていい
ニーナ
ニーナ
だって、なんて言ったらいいか、分からなくて……
テオドール
テオドール
ニーナが気にすることじゃない。
まあ、俺も勢い余っていろいろ言ったけれど、ニーナの気持ちが一番だ。
ニーナがしたいようにしなさい

テオドールは徐々に落ち着いていき、そっとニーナの背中を押してくれた。
ニーナ
ニーナ
……いいの?
テオドール
テオドール
ずっと黙っていた俺も悪かったのに、さっきはアレクシスに嫉妬しただけだ。
大人げなかった。
ヴォルフと話をするなら、今のうちだぞ?
ニーナ
ニーナ
……テオ。
分かった、ありがとう

ニーナはヴォルフガングと話をするため、食事の準備も中途半端なままに、家を飛び出した。



***



数十秒間走れば、ヴォルフガングの家はすぐそこだ。
ニーナ
ニーナ
ヴォルフ! 今、話できる?

ニーナが扉を叩いてそう告げると、心底不思議そうな顔をしたヴォルフガングが出てきた。
ヴォルフガング
ヴォルフガング
なんだ、朝から騒々しい。
出勤前で忙しいのに……。
それにしても、ニーナがひとりで来るなんて、珍しいな
ニーナ
ニーナ
うん。
どうしても、今話したくて
ヴォルフガング
ヴォルフガング
分かった分かった、仕方ないな。
まあ、入れば?

悪態をつきながらも、ヴォルフガングは嬉しそうに口角を上げた。


こうやって、結局はいつも、ニーナを受け入れてくれる。


テオドールとは違う優しさでニーナを守ってきてくれた人を、今から裏切るのだ。


ニーナは勇気を振り絞って、口を開いた。


【第19話につづく】

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