テオドールのあまりの憤りように、ニーナは驚いて後ずさりした。
テオドールは、ヴォルフガングとニーナの結婚のことも、ニーナの気持ちを尊重すると言ってくれたのではなかったか。
彼が何を言っているのか、ニーナにもよく分からない。
ニーナは息を呑んだ。
テオドールの十年来の思いの吐露を、どう受け止めたらいいのか。
義理の兄として、家族としてテオドールを慕っていたからこそ、ニーナはびっくりして足をもつらせ、こけてしまった。
床に尻もちをつくと、テオドールがすかさず抱え上げ、椅子に座らせてくれる。
こうして、いつでも助けてくれた義兄が、自分を思っていたことに気付かないなんて、なんて間抜けだろうか。
だが次第に、気持ちを押し殺してまで、ヴォルフガングの花嫁として送り出そうと見守ってくれていたテオドールに、ニーナは複雑な感情を抱いた。
申し訳ないのと同時に、ニーナの気持ちを最優先してくれることへの感謝の気持ちがわいてきて、ニーナは涙を流す。
テオドールは徐々に落ち着いていき、そっとニーナの背中を押してくれた。
ニーナはヴォルフガングと話をするため、食事の準備も中途半端なままに、家を飛び出した。
***
数十秒間走れば、ヴォルフガングの家はすぐそこだ。
ニーナが扉を叩いてそう告げると、心底不思議そうな顔をしたヴォルフガングが出てきた。
悪態をつきながらも、ヴォルフガングは嬉しそうに口角を上げた。
こうやって、結局はいつも、ニーナを受け入れてくれる。
テオドールとは違う優しさでニーナを守ってきてくれた人を、今から裏切るのだ。
ニーナは勇気を振り絞って、口を開いた。
【第19話につづく】
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。